社会福祉法人朝日園(香川県三木町)

若いスタッフのパワーとアイデアで印刷事業を展開する「朝日園」

朝日園の概要

朝日園は、「朝日園」(就労継続支援A型事業・就労継続支援B型事業・生活介護事業・施設入所支援事業)、「朝日平成園」(就労継続支援B型事業・生活介護事業)、「すずらん」(生活介護事業)等の障害者福祉サービス事業を展開する社会福祉法人である。この他、障害者生活支援センター「あい」、地域活動支援センター「あさひ」、障害者ホームヘルプ「あさひ」、福祉ホーム「朝日つばさ」「朝日ヶ丘」なども運営している。

法人の原点となるのが1976年に設立された重度身体障害者授産施設「朝日園」であり、中四国初の重度身体障害者の入所型施設として注目を集めた。発足以来こだわってきたのが、障害者の経済的自立である。そのため高い工賃を実現できる作業としての印刷事業に着目し、中心作業として続けてきた。

初代理事長が朝日段ボールという企業の設立者であったことから、当時の福祉施設としては珍しい企業的な経営手法を導入。その結果、37年後の今日、印刷事業をおこなう他の障害者施設がどこも苦戦する中でも、約70,000円(A型)、約33,500円(B型)という高い平均工賃を達成できているのである。

印刷事業が順調に運営できている秘訣

朝日園の現在の年間売上高は、約1億2,000万円だ。これは、ピーク時(1998年頃)の1億5,000万円からはダウンしているものの、印刷業界の現状を考えると減少幅は非常に少ないと言える。他の事業所が急激に売上を減少させる中でも、朝日園では現在の数字を維持し続けているのである。この理由はどこにあるのだろうか? 高橋英雄施設長(49歳)は、次のように語ってくれた。

「私が若い頃は、売上も面白いように増えていく時期でした。今は昔と違ってパソコンも普及し、カラープリンターも高性能になっています。簡単なチラシやパンフレットなら、お客さんが自由に作れる時代になってしまい、軽印刷業は年々厳しくなっているのも事実です。そんな中、私たちは、封筒や伝票、少部数の冊子など、細かな仕事をコツコツと積み上げて売上を達成してきました。そんな大げさな秘訣なんてありませんよ(笑)。ただひたすら、小さな仕事を真面目にこなしているだけです」

そう控えめに語る高橋施設長だが、現場を見せてもらうといくつか安定経営のヒミツを発見することができた。それは、一つには的確な機械設備の導入である。朝日園のユーザーは、小さな中小企業が大半を占めている。当然、地方ならではの特殊な仕事も多い。たとえば、小ロットの封筒印刷や、特殊ミニサイズの封筒などだ。一般的にはこうした印刷物は「全外注」として専門の印刷会社に回すことが多いのだが、朝日園ではこれらを内製化することで利益を稼いできた。

そのため、封筒の形に用紙をカットするための特殊な断裁機や、小ロット製袋機などが設置されている。領収書等の伝票用紙にナンバーを自動的に活版印刷するナンバリング印刷機もまた、都会ではもはや滅多にお目にかかれないマニアックなマシンだ。「小さな仕事をコツコツと」という高橋施設長の言葉を、まさに象徴する風景だろう。一件あたり何百万円という大きな仕事はほとんどないが、このような地味な仕事を効率的に処理していく。これこそが朝日園の印刷事業の基本方針と言える。

若いスタッフが牽引する印刷事業

そしてもう一つ、朝日園の特徴がある。それは若いスタッフが大半を占め、彼らのパワーが印刷事業を牽引している点である。高橋施設長は、嬉しそうに語っている。

「ここ数年で、若いスタッフが現場の大半を占めるようになりました。35%が20代の職員ですし、30代を含めると半数以上になります。印刷事業というのはいまやパソコン産業でもありますから、若いスタッフが多いというのは本当に助かります。彼らの発想で、これからどんな機械設備が必要なのかを自ら決めてもらっているのですよ」

最新のオンデマンド機の導入などは、その成果の一つだ。福祉施設が導入するオンデマンド印刷機というと単なるカラープリンターの場合が多いが、朝日園の機械はまさに本格的である。A4サイズ200頁程度の冊子が、データから直接プリント→丁合→アジロ閉じ(糊閉じ)→三方断裁まで一挙に完成してしまうのだ。印刷品質も、既存のプリンターと較べると格段に上質である。モノクロとカラーの二台(カラーオンデマンド機は、中綴じのみ)が用意されており、これらの機械によって営業展開はさらにしやすくなった。

機械の導入だけでなく、工場内の人材活用法についても現場の意見が優先されているらしい。たとえば、複数部署の担当制である。取材当日は製版技術者が製袋機を回し、DTPのオペレーターがなんと伝票印刷の機械に張り付いていた。これによって無駄なく、効率的に機械を動かせることができる。もともと事務職だった新人の若い女性を思いきって印刷営業に抜擢するなど、その人材登用法はじつに戦略的かつ巧妙でもある。人なつこい笑顔で顧客の心を掴み、女性特有の細やかさも品質管理を向上させている。印刷現場の労働環境は決して楽ではないはずだが、「利用者の工賃をより高いものにする」という共通テーマが、職員たちの心を一致団結させている。

さらに工賃アップをめざした取り組み

もちろん、このような内部努力だけでは限界もある。ここ数年低迷しつつある売上高を向上させるための攻めの営業戦略も必要だ。そのため朝日園では、香川県社会就労センター協議会(香川県セルプ協)の中心的な役割を担い、2010年にはNPO法人化を実現させている。官公庁から発注される仕事の「共同受注窓口」として機能させるのが目的だ。専門のコーディネーターを2名配置し、受注した仕事を県内各施設に振り分けることができるようになった。この結果、香川県全体の平均工賃は2年間で約15.5%アップしたという。

県内の施設が共同で製作できるオリジナル製品の開発にも着手した。讃岐逸品シリーズとして売り出し中の「うどん県バッチ・和三盆」や「レアシュガースイーツ」「SANNUKI Office Bag/醤油Beans Body Bag」などである。どれも郷土の専門家たちのアドバイスによって生み出された高付加価値製品であり、郷土の財産をモチーフにしているのが特色だ。パッケージもオシャレで、贈答品として採用されるにふさわしい逸品となっている。

これらの事務局は、すべて朝日園が担ってきた。高橋施設長自身、最近では香川県セルプ協としての活動に多くの時間を割くようになっている。朝日園としても、人的・作業的な負担は決して楽なものではないはずだ。しかし香川県セルプ協としての活動が、将来的には必ず朝日園の印刷事業の拡大につながると高橋施設長は信じている。

「ご存じの通り、2013年4月から障害者優先調達法が施行されました。国や地方自治体・独立行政法人等は物品や役務といった仕事を、障害者事業所に対して積極的に発注することが求められています。これまで朝日園のユーザーの大半は民間企業であり、官公庁からの受注は微々たるものでした。障害者優先調達法によって、この比率を少しでも上げていきたいと考えています。そのためには単独の施設としてではなく、香川県セルプ協として活動していくことがどうしても必要なのです」

朝日園の具体的な目標は、B型事業所の工賃を約40,000円近くにまで引き上げることだという。この目標数値は上からのトップダウンではなく、現場で必死に働く職員たちが自ら掲げたものである。若い力が結集して、つねに前向きな姿勢を貫く朝日園の若きスタッフたち。彼らの頑張りは、全国どこでも厳しい事業状況が続いている印刷事業の世界に新風を巻き起こしてくれることだろう。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。