社会福祉法人ゆうわ会(長崎県長崎市)

企業との積極的なタイアップで事業活性化を図る 「ワークショップあさひA」

ゆうわ会の概要

ゆうわ会は、さくら幼稚園・もとお幼稚園・みはら幼稚園・にしやま幼稚園等の保育事業と、ながさきワークビレッジ(施設入所支援事業・生活介護事業・就労移行支援事業・就労継続支援B型事業・短期入所支援事業・日中一時支援事業)、サンビレッジ(施設入所支援事業・生活介護事業・短期入所事業・日中一時支援事業)、ワークステーションすばる(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業)、ワークショップあさひ(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業)、ワークショップあさひA(就労継続支援A型事業)、すずらん(生活介護事業)、ウインド(生活介護事業)等の障害者事業を展開する社会福祉法人である。

この他にも、ライフステーションすばる・わかぎホーム・わかばホーム・かなで等のグループホームや、ホームヘルプ サン(居宅介護事業・重度訪問介護事業等)、障害者就業・生活支援センターながさき、地域交流センター・地域ふれあいセンター等も運営している。

ゆうわ会の障害者就労支援事業の中心を担うのは、やはりA型事業所であるワークショップあさひA(以下、あさひA)だろう。長崎名物のカステラを本格的に製造する施設として全国的にも有名であり、企業との積極的な提携関係を築くことでA型事業所を成功させようとする事業展開が注目されている。

ゆうわ会 ファッサード

本格的な長崎カステラ工場誕生の経緯

ゆうわ会があさひAを立ちあげたのは、2009年のことだった。法人として初めて取り組むA型事業所であり、事業運営のためには付加価値の高い作業を選定する必要があった。そこで選ばれたのが、カステラの製造である。竹内一理事長(52歳)は言う。

「やっぱり、長崎のお菓子といったらカステラじゃないですか。土産物としての潜在需要は無限であり、アイデアによっていくらでも可能性が広がるはず。そこで私は長崎海道という地元企業(洋菓子店)と交渉し、そのカステラ製造部門をすべて私たちの新施設に事業譲渡していただくことを打診したのです」

つまり、福祉施設が企業に持ちかけたM&Aである。非常に突飛な発想にも思えるが、じつは相手方にもメリットがあった。職員や工場といった製造ラインをすべて譲渡することで、大幅なコスト削減となる。しかも新工場で製造したカステラの販売権は残す契約であり、販売マージンのみに特化した事業への転換が可能だ。

もちろんゆうわ会にとっても、提携の意義は大きかった。カステラ製造のノウハウや、オーブンやスライサー等の基本機材を無料で譲り受けたこと。既存顧客がそのまま引き継がれるため、安定した仕事がすでに確保されていること。つまり新事業をスタートさせる上での心配がまったく不要であった。お互いにとってまさにウィン・ウィンの関係となるため、事業継承がスムーズに進んだのである。

「福祉の人間が苦手とする仕事に販路開拓があります。私たちがA型事業所を始めるにあたり、強力な営業力が必要だと思いました。そこで思い切って営業部門は企業の力を借り、私たちは製造に徹するというスタイルにしてみたわけです。もちろん自前での営業強化も少しずつ進めてはいますが、今でも長崎海道さんの営業力は私たちにとって欠かせない戦力となっています」と、竹内理事長は企業との協同成果を強調する。

  • スタッフ
  • カステラの商品写真

低価格でありながら、手焼きの味を守るカステラ

工場を見学すると、カステラ職人たちが大きな枠型に材料を流し込み、オーブンで一枚一枚、丁寧に焼いている姿に驚かされる。オーブンの扉を開け、温度調節や生地の泡切りを何度も根気強く行っているのだ。こうした地道な作業の繰り返しが、カステラの完成度を格段にアップさせるのだという。

「私たちのカステラの特徴は、手焼きにこだわっていることですね。長崎県内でもオートメーション化されたオーブンで焼く大量生産品が増えましたが、これだけは頑固に守っています。シンプルなお菓子だけに、職人の腕がそのまま反映されてしまう。機械焼きとは、味がまったく違うのです。手間をかけるからこそ、本当に美味しいものができる。手焼きへのこだわりは、どんな老舗メーカーにも負けません」と、生活支援員の梶原健志さん(33歳)は自信たっぷりに語る。

  • ノンブランドならではの低価格路線を目指した長崎カステラ
  • カステラ製造

そうはいっても、長崎ではカステラはダントツの人気お土産である。長崎空港や長崎駅、そして市内にある数多のお土産店の店頭で、何十種類ものカステラが山積みされているのはお馴染みの光景だ。ニーズが多いということは、もちろんライバル企業も数多いはず。こんな激戦区のなかで、どのような販売戦略をたてたのだろうか。

「まずは、価格です。ご存じの通り、長崎カステラといえば、福砂屋、文明堂、松翁軒の三大ブランドが飛び抜けています。私たちが同じ土俵で戦っても、勝負になりません。しかし、ノンブランドならではの低価格路線(販売価格が、半斤600円程度〜)なら十分に勝機はあるのです」と、竹内理事長。

低価格でありながら、手焼きの本格的な味わいが残るカステラ。そして、保存料等の合成添加物を一切加えていないにもかかわらず、お土産品として魅力的な長い賞味期限(製造日より40日)が保証されているカステラ。この二つの特徴を最大の武器にして、激戦区に挑んでいるのだという。

「一般的なカステラの賞味期限は、だいたい2週間程度でしょう。私たちはパッケージに窒素を充填して無酸素状態にすることで酸化を防ぎ、長い賞味期限を保証する技術を導入しています。これは包装に非常に手間がかかるため、他社では採用していません。賞味期限が長いので、販売店の人たちからはとても取り扱いやすいカステラだと評価されています」

毎年100万人を超える来場者でにぎわう長崎のランタンフェスティバルの時期になると、あさひAのカステラ出荷量もピークを迎える。2月初旬からの約1ヶ月だけで、なんと1万本を売るのだ。修学旅行の学生や海外からの観光客には、手頃な価格が好評だ。グラバー園などの観光地で、「お土産としてもっとも売れるカステラ」となっているのは当然かもしれない。

  • カステラ裁断画像
  • カステラオーブン焼き画像

企業との連携を次々と模索する

あさひAでは、カステラ以外の事業でも積極的に企業との連携を模索している。たとえば、長崎でただ今売り出し中のハトシである。ハトシとは、長崎卓袱(しっぽく)料理の一つ。エビのすり身などを食パンに挟んで揚げたスナック感覚の食べ物だ。その歴史は江戸時代に遡るほど古いが、最近では角煮まんに続く新たな長崎名物として観光客の間で人気が高まっている。そんなハトシのメーカー・まるなか本舗や長崎一番等の大手企業に、専用パン(サンドイッチ用パンのように薄くスライスしてミミをカットしたもの)を提供しているのだ。竹内理事長は言う。

「パンの製造は、カステラの製造と並ぶあさひAの事業の柱。もともと学校給食のパン製造を中心に手がけていましたが、生徒数の減少や価格競争の波にのまれて年々厳しい状況が続いています。それよりむしろ、ブームになりつつあるハトシに目を向けたほうが得策だと考えたわけです。学校給食を手がけていましたから工場の生産能力は非常に高いですし、厳しい商品チェックを乗り越えた商品管理にも定評がある。もちろんパンの味自体も絶対的な自信がありますから、つてをたどって営業に行けばたいてい採用されますね。まるなか本舗のハトシロールなどは、ウチのパンに切り替えてから商品が美味しくなったと評判になっているらしいですよ。長崎駅のキオスクでも販売されているので、ぜひ食べてみてください(笑)

現在、新事業として構想中なのは、中華麺の製造だという。県内でチェーン展開を図ろうとしている某ラーメン店がある。現在は1店舗のため店内で製麺しているのだが、チェーン展開するには専用の製麺工場を作らなければならない。そのためには数千万円の投資が必要になるだろう。それならば...と、竹内理事長はカステラ事業の譲渡を打診した時のように商談を持ちかける。製造部門を、あさひAに全面的に任せてはどうだろうか、と。

福祉に携わる人たちがあえて企業と競争して商売をする必要はない、というのが竹内理事長の基本的な発想だ。とくにA型事業を成功させる上では、企業とむしろ友好的な提携関係を結び、営業部門を企業、製造部門を自分たちが担っていく。お互いが、それぞれ得意な分野を担当すればいいとの考えである。もちろんこの対等な関係を成り立たせているのは、どんな相手にも動じない高度な交渉力であることは言うまでもない。

  • サンドイッチ用パンのように薄くスライスしてミミをカット(ハトシ)納品
  • ハトシロール

商談会や物産展への出展で、さらに大きな出会いを探る

あさひAが、このように次々と企業との連携を図っていくきっかけは、多くが商談会や物産展への出展であるという。とくに大きかったのが、福岡フィナンシャルグループが長崎・雲仙・佐世保の3市のアンテナショップ「キトラス」を中心として開催する「キトラス商談会」であった。銀行と取引のあるさまざまな生産団体や企業が一同に揃い、自らの技術や製品、そして生産力を提示し合い、新たな商談先や仕入れ先を開拓するのが目的だ。ここでの出会いが次々と新しい企業とのネットワークを拡大している。

2016年3月には、東京・日本橋に長崎県の大型アンテナショップ「日本橋長崎館」がオープンした。日本有数の観光県である長崎のアンテナショップにかける地元企業の期待は大きく、あさひAでももちろん長崎カステラをエントリー。ライバル事業者が最も多い品目の中で、見事に取り扱い商品に採用されている。あさひAの商品としては初めての本格的な東京進出であり、アンテナショップを通じて新たな商談が生まれることも期待されている。

「脱福祉」「超福祉」という言葉が、最近では障害者就労系事業所の世界でも少しずつ掲げられるようになってきた。あさひAにおけるこれまでの歴史は、まさにその実践録であるといっていい。これからもますますダイナミックな動きを模索して、福祉事業の世界に新潮流を生み出していってほしい。

  • 長崎カステラ切れ端詰め合わせ
  • カステラ梱包風景

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。