社会福祉法人キリスト者奉仕会(福岡県大牟田市)

「大牟田恵愛園」 を皮切りに、高い工賃を目指した様々な就労事業所を運営

キリスト者奉仕会の概要

キリスト者奉仕会は、大牟田恵愛園(施設入所事業・就労継続支援B型事業・生活介護事業)、恵愛ワークセンター(就労継続支援A型事業・就労継続支援B型事業)、たんぽぽ(就労移行支援事業・就労継続支援A型事業・就労継続支援B型事業)等の障害者サービス支援事業を中心に活動している社会福祉法人である。この他にも、障害者生活支援センターハーツ、ヘルパーステーションハーツ、8箇所のグループホーム、地域交流センター(たんぽぽの施設内に併設)を運営している。

1979年、大牟田バプテスト教会壮年会有志によって福祉の働きを大牟田の地でも行いたいとの願いから、キリスト者奉仕会の活動が始まった。1983年には法人化し、重度身体障害者授産施設・大牟田恵愛園が開設。1991年には恵愛ワークセンター(身体障害者通所授産施設)、2007年の新体系移行後には法人として初めてのA型事業を含むたんぽぽをオープンするなど、時代や利用者ニーズの変化を読み取って、つねに新しいチャレンジを続けてきた。現在、法人が運営する事業所の利用者総数は394名という大きな規模になっている。

  • 恵愛ワークセンター ファッサード
  • たんぽぽ ファッサード

毎日400食を宅配する、たんぽぽの「そよかぜ弁当」

さまざまな事業が展開される中、もっとも就労に特化した事業所として期待されているのが、たんぽぽである。クリーニング(大牟田恵愛園)、タオル縫製(恵愛ワークセンター)等の下請け作業が中心だった動きを一新し、初めて飲食事業(宅配弁当とレストラン)に取り組んだ。その経緯を、叶義文副理事長(55歳)は次のように語っている。

「たんぽぽは、法人としても初めて挑戦するA型事業所(B型、就労移行も含む多機能型)であり、下請け作業からの脱皮がテーマでした。毎日美味しいモノをきちんと提供できるかどうかが勝負です。とくに毎日食べるお弁当は、その代表株。障がい者の施設が、地域の人たちにお弁当を届けるというのも非常に意義ある仕事だと考え、新施設のメイン事業に決定したわけです」

お弁当は日替わり弁当が中心で、1食450円とした。日替わりといっても、毎日、肉か魚中心のメニューを選択することができる。たとえばある日の献立を見てみると、チキン南蛮(肉)か、サバの味噌煮(魚)となっている。土日祝日を除く毎日、このように2種類のメニューが用意されているわけだから、食べ飽きることがほとんどない。ワンコイン以下で食べられる低価格をウリにしながらも、弁当に詰まっているすべての総菜が手作りだ。冷凍加工食品を一切使わないのが基本だと、サービス管理責任者の沖中久美子さんは語っている。

「やっぱり毎日口にするものですから、安心安全なものを食べたいじゃないですか。ハンバーグはちゃんと挽肉からこねて焼きますし、カツはすべて衣やパン粉を付けて揚げています。卵焼きだって、手作りですよ。美味しい卵焼きは、お弁当には必須のアイテムですからね。卵焼きを作らせたら誰よりも上手い利用者たちが、毎日20枚(400食分)以上必死に焼いてくれています(笑)

  • たんぽぽの日替わり弁当、調理風景
  • たんぽぽの日替わり弁当、弁当箱への盛り合わせ作業

配達は、市内を7コースに分け、7台の配送チームが行っている。毎朝10時までに電話をもらえれば、たとえ1個でも宅配するというシステムだ。弁当の仕込みは朝の7時から始まっているため、最後の弁当箱への詰め合わせで個別調整を行っていく。取材当日も、「○○さん、本日は肉メニューに変更です」「○○さん、本日はキャンセルになりました」との情報が次々に入っていく。しかし現場で働く人たちは利用者も含めて手慣れたもので、当たり前のように複雑な変更に対応していた。豊富なメニューに加え、こうした細やかな対応が人気を呼び、現在では毎日約400食の弁当を地域に届ける事業に成長しているのである。(14時までの連絡で、夕方に届ける夕食弁当もある。夕食弁当は50食)

今や、地域の一人暮らし高齢者を支える食のインフラに

毎日400食を宅配するというたんぽぽの弁当事業は、今や地域に住む一人暮らしの高齢者にとって食のインフラになりつつあるといっていい。配達時に家の雑務(電球の交換等)を頼まれることもしばしば。相手によっては弁当のふたを開けておかずにソースまでかけてあげる心遣いも忘れない。民間業者ではあり得ないこんな嬉しいサービスが、たんぽぽ弁当事業の最大のウリだ。

「市が行っていた配食サービスを引き継いだお客様もいるため、できるかぎりの要望にはお応えしようと考えています。毎日お弁当を届けることで、地域の皆さんの見守り活動になっているのです。私たちのお弁当がないと食生活そのものが成り立たない方もたくさんいらっしゃる。本当に責任重大ですよ」と、谷山恵一施設長(39歳)

最近九州にも大寒波が訪れ、市内の多くの地域で数日間にわたって水道管破裂の影響で断水したことがあった。施設がある地域も例外ではなかったが、困っている人たちのためにも休業するわけにはいかない。断水していない別地域の施設や給水場を駆け回って大量の水を確保し、なんとか最低限(200食分程度)の弁当を製造。食生活が心配な人たちにお届けしたのだという。

  • レストラン「そよかぜ」の店内
  • 毎日400食を宅配するというたんぽぽの弁当

たんぽぽでは、同じビルの2階にレストラン「そよかぜ」をオープンしている。こちらは、施設近隣住民に向けたPR事業といった位置づけだ。1食コーヒー付きで600円という破格の値段で、完全手作りランチを提供する。看板メニュー「そよかぜオムライス」を初めとして、オリジナルカレー、ハンバーグランチ、ジャンタレ肉野菜炒め、日替わりランチ(肉&魚メニュー)など、やはり豊富なラインアップが人気である。施設が受託運営する地域交流センター「たんぽぽ」と同じビル内にあるため、集会の後で食事会に使っていただくケースも多く、店内はいつも多くの地域住民で賑わっている。

地域に開かれた施設を目指すたんぽぽのこうした取り組みは、市内の県立高校や総合病院の食堂運営を受託するという活動にも発展している。受託事業そのものはほとんど利益が出ないというが、障がい者が働く姿を高校生や地域住民に直接見ていただくというのが最大の目的である。もちろん、食堂で提供するメニューの味が評価されることで、そよかぜのレストランや宅配弁当の売上向上にも必ずつながるはずだと谷山施設長たちは考えているのだ。

パン事業に活路を見いだす、恵愛ワークセンター

たんぽぽの食品事業の成功に触発されて、2011年から恵愛ワークセンターでも「らそら」パン事業をスタートさせ、多機能型事業所へとステップアップさせている(A型10名、B型30名)。タオル縫製やリサイクル解体といった下請け作業から、こだわりの天然酵母パンの製造販売によって、より安定的に高い工賃を目指すことが目的だ。サービス管理責任者の永盛英子さんは、らそらのパンの特徴を次のように説明する。

「オーガニックレーズンからおこした酵母を使用して、ゆっくり時間をかけて熟成させました。ずっしりと重みがあり、力強い本格的なパンです。噛めば噛むほど、じんわり味わいが増していくので、パン好きな人たちに好評をいただいています。外のカリカリ感と中のモチモチ感のバランスをぜひ楽しんでいただきたいですね」

  • 恵愛ワークセンターの「らそら」パン事業
  • ちょっとリッチなスイーツ系の菓子パン「ラゾーナ」

らそらのパンは、JR大牟田駅近くの独立店舗や、移動車にて販売するという。2015年には、日本セルプセンターが会員施設に参加を促した「第17回グルメ&ダイニングショー」に、「ラゾーナ」というお菓子で参加。保存が効き、販売単価も高い高級菓子の販売先を模索し始めている。

「ラゾーナは、口の中に広がる自然の恵みと心地よさがテーマの発酵菓子のようなパン。パンと言っても、ラム酒・グラッパ・赤ワインに漬け込んだナッツやフルーツが入っていて、表面はクッキー風の生地でコーティングされていますから、お菓子のような味わいです。ちょっとリッチな高級パンを、ぜひ今後のパン事業の柱にできるといいですね」と、永盛さん。「グルメ&ダイニングショー」での出店時には参加企業からもその味は高く評価されたらしいが、課題はパッケージ。1個1,200円という高級商品にふさわしい包装を、ただ今検討中とのことだ。

高い工賃を目指したチャレンジは続いていく

キリスト者奉仕会におけるさまざまな取り組みを紹介してきた。この法人が行う就労支援事業は「高い工賃を目指す」という意識が明確であり、それぞれの施設で具体的な目標数字も提示されている。大牟田恵愛園の平均月額工賃約45,000円を筆頭に、恵愛ワークセンター25,000円、たんぽぽ40,000円(すべてB型事業の目標数値)となっており、A型事業を運営する二つの施設はもちろん最低賃金以上(減額申請なし)を基本とする。

  • 叶副理事長、スタッフ陣のスナップ写真
  • たんぽぽの設立当初からのクリーニング事業は今も健在

最後に、叶副理事長に法人としての考え方をまとめてもらった。

「私たちの法人には、多くの利用者たちが所属しています。障がいの程度や種類や年齢も、千差万別。そのため、一人ひとりが求めるさまざまなスタイルの生活と仕事場を提供するのが私たちの役割です。しかし就労事業に関してはやはり、少しでも高い工賃を目指すべきだと考えています。B型といえども、年金と合わせて地域生活が可能となる水準、少なくとも最低賃金の1/3以上を支給していますが、さらなる工賃向上を目指していきたいと願っています。そのためにもそれぞれの施設が、できることを精一杯取り組んでいきたいですね」

十数年前からは、その規模も作業品目も工賃レベルも、まったく別次元の施設へと様変わりさせたキリスト者奉仕会の取り組み。その中心的役割を果たした叶副理事長たちが力を合わせれば、きっと近いうちに理想的な工賃目標が達成できる日も近いことだろう。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。