社会福祉法人熊本県社会福祉事業団(熊本県宇城市)

本県の名産いぐさ製品を若い世代に向けて発信する「熊本県くすのき園」

社会福祉法人熊本県社会福祉事業団の概要

熊本県社会福祉事業団は、「熊本県身体障害者福祉センター」(身体障害者福祉センターA型)、「熊本県ひばり園」(難聴幼児通園施設)、「熊本県身体障害者福祉能力開発センター」(肢体不自由者更生施設)、「熊本県くすのき園」(就労移行支援事業所・就労継続B型事業所・生活介護事業所)、「熊本県りんどう荘」(障害者グループホーム)等を運営する社会福祉法人である。昭和50年に「熊本県身体障害者福祉センター」の管理運営を実施する団体として設立されて以来、各種施設の運営を熊本県より委託されてきた。

障害者の就労支援施設としては「熊本県くすのき園」が唯一の存在である。施設の周りには、「松橋東養護学校」、「子供総合療育センター」、「熊本県りんどう荘」、「熊本こすもす園」、「希望の里HONDA」等の施設が立ち並ぶ。熊本県が先導した福祉ゾーン計画(宇城市松橋地区の山間部を切り開いた広大な土地を提供した)に則って建設された施設である。

県の特産品「い草」を作業品目にしてスタート

そんな経過の中で作られてきた施設だけに、当初から熊本県の名産品であるい草製品の製造を作業品目としてきた。い草といえば、熊本県八代地域の代表的な農業・物産品である。その歴史は江戸時代の永正元年にまで遡り、時の八代上土城主・岩崎忠久が農民たちにい草栽培を奨励したことが発端とされている。湿田が多く台風災害などに悩まされていた農民たちの生活は、い草への転作のおかげで生活が豊かになった。こうした感謝の気持ちを込めて、八代では岩崎神社が建立され、毎年豊作を祈ったお祭りが年2回開催されている。い草栽培がスタートしてから500年、現在では日本におけるい草の約90%がこの地で栽培・生産されるまでになった。

熊本県を代表するそんな特産品であるい草を使い、「熊本県くすのき園」では寝ござ、上敷等の製造を作ってきた。当時は、近隣にい草問屋が多く存在し、問屋からの製造受託だけでも十分に忙しかったという。い草事業と共に始めた剣道の部道具づくり共に、好景気に沸いたのが設立当初の事業状況であった。当時のことを西山稔郎施設長(54歳)は、「ほとんどが問屋からの下請け生産でしたけど、一年を通じて生産が注文に追いつかないほどでした」と、語っている。

大量の製造受託をこなしていただけに、いぐさを織る自動織機は広大な工場に13台も設置され、スケールの大きさを感じさせてくれる。柄版といわれるいぐさデザインの原本をセットし、機械を動かしていけば自動的にどんどんい草の織物が作られていく。よほど複雑なデザインでなければ、一時間で2メートル程度の製品が織られていくらしい。

しかしそんな好景気も、最近では懐かしい思い出である。初めに武道具づくりの生産拠点が人件費の安い中国に完全に移ってしまい、この作業は現在では完全に消滅した。また、い草の生産拠点も次々に国内から移転しつつある。日本人の生活様式そのものが変化して和室の部屋も減少しているため、需要そのものがどんどん落ち込んでいるのである。

そのため、あれだけ盛況を誇った熊本県内のい草事業も、生産農家・栽培面積共に減り続けているのが現状だ。「熊本県くすのき園」が取引をしてきたい草問屋も県内では次々に姿を消していった。現在唯一取引があるのは、福岡県の業者だけなのだという。「隣のトトロ」のキャラクターを織り込んだキャラクターござの生産だけが、問屋からの大量の受託生産という昔の名残を垣間見せてくれる仕事になっている。

熊本県も、「い草」製品の復活を必死にアピール

こんな中、県を代表する事業の衰退になんとか手を打とうと熊本県も必死の努力を続けている。「ひのさらさ」なる高級畳ブランドを開発することによって安価な外国産のい草との差別化を図ったり、異業社を集めたデザイン開発研究会を開催して、現代的ない草製品の開発研究を進めてきた。熊本県伝統工芸館では「熊本い草工芸展」と題する展示会を開催し、毎年さまざまな切り口でい草の可能性をアピールしている。4回目を迎えた昨年の展示会では、アーチストの日比野克彦氏に依頼して熊本城の石垣をイメージした茶室を製作してもらう等、その新しい感覚が話題となった。

もちろん「熊本県くすのき園」でも、これまで独自にさまざまな形でい草製品を宣伝してきた。たとえば熊本県内のインターハイ出場高校(団体競技)に対する、い草応援幕の贈呈である。応援幕には、「高校名」や「必勝」の文字が織り込まれている。甲子園球場の高校野球大会で、出場校の名産物を使った応援合戦が繰り広げられているが、まさにあの雰囲気だ。熊本名物のい草で作られたこの応援幕はどこの高校からも大変喜ばれ、大会終了後には高校生たちが大会結果の報告をするためにわざわざ施設を訪れてくれたのだという。

また熊本県い草研究所と連携しながら、県内の観光地のイラストを織り込んだ各種の花ござも製作している。「芦北うたせ船」「山鹿灯篭」「球磨川下り」等々。熊本県内には、い草のデザインに相応しい伝統的な祭りや観光地がたくさんある。熊本城築城400年祭として県内が賑わった平成19年には、専用グッズを製作してPRに一役買った。イメージキャラクターである「ひごのまる」を織り込んだ、花ござ、クッション、車の座席用背もたれ、壁掛け等を製作したのである。これらは熊本城近くの売店や道の駅で販売されて、観光客などから好評を得た。

熊本県で全国の知事会が開催されたときには、お茶会用のグッズとして「熊本県くすのき園」の「い草コースター」が採用された。この時も西山施設長のアイデアで、コースターに各県のマークを刺繍したオリジナル製品を提供している。花ござと違い、コースターの場合には織り込む面積が小さいので、着色したい草でイラスト等を表現することができない。そこで外部の業者に依頼して、い草生地に糸でマークを刺繍してもらうことにした。この技術を用いると、もっと複雑な刺繍も可能となり、たとえば「い草表彰状」等も製作することができる(い草生地の表彰状に、文字をすべて刺繍で表現したもの)。これまで何度も参加してきた研究会等で知り合った異業社との人間関係が、このような仕事を進める上で活きてきたというわけである。


熊本空港ロビーにて

今後の可能性は、「い草」の魅力を伝える自主製品の販売だ

このようにさまざまな形で「い草」の普及活動に努めてきた「熊本県くすのき園」だが、今後の事業発展のポイントは、受託生産からの脱皮に尽きるのだと言う。

「受託生産の仕事は、典型的な薄利多売の世界。一年中平均的に受けなければ、それほど利益が上がる仕事ではありません。最近の仕事は他品種少量生産のものばかりですから、作業効率もすごく悪いのです。忙しい期間も、2月から8月に向けた半年ぐらい。後の半分は、せっかく生産力がある工場も空いてしまっている状況です。その意味からも、今後はできる限り自主製品の売上げを伸ばしていきたいと思っていますね」(西山施設長)

西山施設長がここで語る自主製品とは、これまで販売してきた花ござや寝ござ等の伝統的ない草製品ではない。もちろんそれらの製品作りも大切なのだが、若い人たちに向けた新たな自主製品群にこそ、今後の事業展開のポイントがあるのだという。

「熊本県くすのき園」ではこれまでにデザイン開発研究会等の協力を得て、コースター、ランチョンマット、箸置き、マウスパッド、花い草等のい草GOODSを作りだしている。どれも伝統的な単色のい草製品とは一線を画し、染めい草(い草をさまざまな色に染め上げたもの)を使ってカラフルに仕上げた現代風の商品群だ。い草のカードケースに和紙で縁を付けたコラボ製品なども開発した。

「い草にはもともと、空気を綺麗にしたり、湿度を調整したり、匂いによるアロマ効果などがあります。こうした特色をアピールすることで、若い人たちにももっとい草の素晴らしさを感じてもらえると思うんです。まだまだ営業力が不足していて、本当に商品を届けたい都会のお客さんのところにまで情報が伝わらないのが実情なんですけど...」

と、製品と現在の顧客層のミスマッチを嘆くのは、双原栄美さん(24歳)だ。それは当然だろう。これまで受託生産を主体としてきた「熊本県くすのき園」だけに、自主製品の営業力はまだまだ弱い。販売先としては、近隣の道の駅や福祉バザーが主力を占めている。顧客層は年配の方々が圧倒的であり、現代風のこれらの商品の販売が芳しくないのは仕方ないともいえる。

しかし日本商工会議所・全国観光土産品連盟が主催する「第50回全国推奨観光土産品審査会」にい草コースターを出品したところ、先日見事に審査に合格した。今後は商品に「全国観光土産品連盟・推奨品」マークのシールを添付することが可能になった。土産物品としてはもちろん、記念品としても、若い人たちに向けたギフト用品としても需要が見込まれるのではないか。

さらにこの商品は、真心絶品第2回認定商品にも選定されている。「アロマ効果があるい草GOODSは、これからの現代人のさまざまな生活シーンに必須アイテムになるのではないか」と、とくに女性審査委員から高い評価を得た。顧客と製品のミスマッチが長く続いたが、ここにきてやっと製品の良さを評価してもらえる販売ターゲットに出会えつつあるのかもしれない。

「自主製品販売に道筋ができれば、受託生産から脱皮して完全にそちらにシフトしてもいいとも考えています。なんとか新しい顧客層に、い草の魅力を伝えられるように努力していきたいですね」と、西山施設長。い草そのものには、日本人なら誰でも感じる郷愁が残っている。生活の洋風化が進めば進むほど、い草への懐かしを感じる人々は多くなるはずだ。そうした深層心理に訴える製品を打ち出せば、い草人気は回復してくるのではないか。そう信じて、私たちも真心絶品を通じた「い草製品」の普及活動を続けていきたいと思う。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。