社会福祉法人青生会(熊本県菊陽町)

熊本県産の新ブランド豚肉を使った「希望館」のハム・ソーセージ事業

社会福祉法人青生会の概要

青生会は、「菊陽苑」(就労移行支援事業/就労継続A型事業)、「ジョブラボ」(就労移行支援事業)、「希望館」(就労移行支援事業・就労継続B型事業)を運営する社会福祉法人である。

事業内容は、「菊陽苑」が業務用クリーニングとキノコの栽培、「ジョブラボ」が一般クリーニング(リネン)、「希望館」が食肉加工(ハム・ソーセージ製造)とレストラン経営である。

もともとの発足が精神障害者通所授産施設ということもあり、サービスの利用者は精神障害者がほとんどを占めている。彼らが働く施設そのものが熊本県内では少ないし、青生会で仕事能力を身につけたとしても一般企業に就職することは非常に難しい。こうした現実をカバーするために、青生会では法人内で完結したサービスが提供できるような環境を整えてきた。

結果として授産施設からスタートして、福祉工場(現在は就労継続A型事業所)、さらには一般就労の受け入れ先としての有限会社キクヨー(主に「菊陽苑」で製造されるキノコや菌床の販売や配送業務をおこなうグループ会社)まで設立することになった。

施設が建っているのは、熊本県菊陽町である。県内でも初めての精神障害者授産施設ということで建設時には住民からの反対もあり、やっと見つかったのが現在の土地ということだ。当時は延々と田園地帯が続くのどかな地域であったが、2002年にソニーセミコンダクタ九州がこの地に工場を移転した後、続々と半導体関係企業の進出が相次ぎ、辺りは工業団地が建ち並ぶ場所に変化した。

こうした変化をきっかけとして、青生会としても以前のように地域から隔離された施設ではなく、地元の人たちと交流しながら障害者の働く場を広げていきたい。2008年に設立された新しい施設である「希望館」で実施しているレストランやハム・ソーセージ製造事業のスタートは、法人のそんな願いも込められている。

キノコ栽培だけで、年商7,300万円!?

青生会の中心的事業は、「菊陽苑」の就労継続A型事業としておこなっているキノコ栽培である。栽培しているのは、シイタケ、ナメタケ、ヒラタケ、ハナビラタケ、キクラゲ等々。キノコ栽培というと施設にありがちな小規模な生産現場を想像するが、とんでもないことだ。ここではバイオセンターという名の専用の菌床室まで用意されている。つまり菌床そのものから施設の中で製造しているわけだ。菌床は施設で栽培する分だけでなく、地域の農家にも卸しており、菌床製造そのものが事業品目の一つともなっている。

キノコの栽培には天然の丸太に木材腐朽菌を植え付ける「原木栽培」と、オガクズなどの木質基材に米ぬかなどの栄養素を混ぜて作った人口培地を使う「菌床栽培」の2種類がある。安定的に生産できる「菌床栽培」はいまやキノコ栽培の主流である。

中心的に栽培しているのは、シイタケである。バイオセンターで培養した菌床を専用室で90日間熟成させると、面白いように次から次へとシイタケが生えてくるようになる。この後発生室に移すと、何ヶ月もの間毎日収穫することができるのである。このため職員は交代で365日、収穫を続けなければならない。

栽培されたキノコは近隣の店だけでなく、鹿児島や福岡、北海道のスーパーや仲買人たちに卸されていく。年間総売上は、なんと7,300万円にも達するという。1パック100円程度のキノコを売って、この金額である。月平均では、約2トンのキノコを出荷していることになる。毎日トラックが施設の入り口に横付けされ、各地へと製品が運ばれていくのである。障害者の施設としてはもちろん、これだけ大きな規模で菌床からキノコ栽培をしているのは、大企業以外では非常に珍しい。

新しい熊本の名産品「りんどうポーク」を使った食肉事業

キノコ栽培で成功を収めた青生会が、2008年に新しくスタートさせた事業が「希望館」のカフェレストランの運営とハム・ソーセージ製造だ。「菊陽苑」のキノコ栽培事業が順調なのは、食品偽装問題や中国野菜に対する消費者の不信感によって「安心安全な国産食品」への需要が高まっているためでもある。そこでさらに「こだわりの食」を突き詰めて、食品の製造と販売、料理の提供をする場を設けることになった。

食材としては、熊本県が鹿児島県「黒豚」に対抗して、新たなブランドとして育てようとしている「りんどうポーク」や「ひごさかえ肥皇」という豚肉を中心に据えた。「りんどうポーク」は一般豚と比較すると身に締まりがあり、風味に優れ、きめ細かな甘みが特徴である。美味しさの決め手である「グルタミン酸」や、コレステロール値や血圧を正常値に近づける働きがある「タウリン」、体脂肪を分解して燃焼しやすい体にする「リノール酸」、疲労回復・老化防止に役立つビタミンB1等が多く含まれている、栄養価もバッチリの豚肉だ。

「ひごさかえ肥皇」は、熊本県農業教育センターにおいて造成された高能力血統豚「ひごさかえ302」の血筋を引いた豚のみに認定される高級ブランド肉である。出荷前2ヶ月間の飼料に麦類等を10%以上添加することによって、筋肉内脂肪含量と脂肪酸のオレイン酸が増加し、美味しい肉質になる。さらに出荷の段階で肉色と脂肪のチェックをおこない、合格した製品のみに付与されるという厳しい基準が設けられている。

このようなブランド肉を使って、ロースハム・ソーセージ・ベーコン・ウインナーの4種類の製品を製造することにしたのだ。こだわりの肉をたっぷりと使うため、ロースハムは400gで2,000円、ウインナーは6本で600円という高級品になってしまった(「ひごさかえ肥皇」を使った製品は、さらにこの価格の約20%増になる)。しかもこれは工場直売としての価格であり、スーパー等で販売する時にはさらにマージンが上乗せされることが多い。大量販売のメーカー品と比較すると価格の差は明らかだが、あくまでホンモノの素材と基本に忠実な製法が大切と考えている。

「食材には徹底的にこだわりました。冷凍肉は一切使いませんし、味付けの塩も天草の天然塩を使っています。食材の質を落としたり、肉以外の添加物を加えればいくらでも安価にはできますけど、味がまったく違うんです。それよりも私たちはホンモノのハム・ウインナーの味をみなさんに知ってもらいたいんですね。一度食べてもらえれば、価格には納得していただけると思います」と語るのは、栄養士の資格も持ちハム・ソーセージ工房の製造管理を任されている池畑依里香さんだ。

一見穏和そうに見える彼女だが、「私がいくら相談しても、質が落ちる食材は絶対使おうとしないんですよ(笑)」と太田良知営業部長(50歳)が嘆くほど、素材へのこだわりは頑固そのものである。だから味には絶対の自信を持っている。「肉の味がダイレクトに伝わる商品に仕上がっていると思います。素材の味が美味しいので、よけいな味付けはできる限り控えていますし。ウインナーなどは特に粗挽きの肉を使っているので、噛んだときのプリプリ感が他の製品にはない感覚だと思いますよ」と、池畑さん。その語り口には、安心安全な美味しい食品を作っているという自信が溢れていた。

まだまだ試行錯誤の段階。新製品も開発中

ハム・ソーセージ製品の販売先は、近隣の道の駅や市役所等の官公庁での出張販売、イベント等での販売である。スタートしたばかりの事業なので、キノコのような営業活動はまだ実現できていないのが現状だ。

太田営業部長は、「どこに出しても恥ずかしくない製品は出来ましたので、後は販売先の確保が最大の課題ですね」と語っている。ジャスコ九州の『冬のギフトカタログ』に大手有名メーカーの製品と並んで「りんどうハム&ベーコンセット」が掲載されるなど、少しずつ下地は出来つつある。また最近ではさらに熊本の代表的な食材である「馬肉」を使ったソーセージの試作も進行中とのことだ。

「熊本の有名な高級馬肉専門店から、馬肉を仕入れ、オリジナルソーセージを試作しています。馬肉ソーセージというのは一般的にもまだ珍しい商品なので、完成すればいろんなところに営業できる商品だと思うんですよ。いろいろ研究した結果、おかげさまで自信ある製品になりました。商品化まで、もう一息です」と、太田営業部長。

馬肉というのは豚肉より固めの食感が特色で、豚のような脂身がないので、パサパサになりやすい。そのため、馬肉の特性を残した上で豚肉を若干混ぜるというバランス感覚に一番苦労を重ねたのだという。熊本の名産品「りんどうポーク」や、熊本県産ブランド豚「ひごさかえ肥皇」を使ったハム・ソーセージ製品に加えて高級馬肉ソーセージが完成すれば、希望館の製品アイテムは相当幅広いものになる。ぜひとも「真心絶品」にこれらを掲載して、全国の消費者に安心・安全で美味しいハム・ソーセージを食べてもらいたいものである。

「施設が建設された時のことを考えると、隔世の感がありますね」と、レストランで地域の人たちがランチタイムに訪れる姿を眺めながら感慨深げに語るのは、梶原宗通施設長(65歳)だ。「法人の最終的な目標は、施設で働く人たちの住居の確保にあります。そのためにはやはり、地域との密接な連携が欠かせません。だからこそ、ハム・ソーセージやレストラン運営という安心・安全な食材の提供事業が重要な活動になっていくのです」と、施設としての方針を語ってくれた。商品の販売を通じて、さまざまな人たちとの交流を着実に増やしていくことが重要なのである。

このように「希望館」の新しい事業には、心に病を持つ人たちが平穏な生活を送れるようになるための夢が託されていた。ぜひとも「菊陽苑」のキノコ栽培同様、全国展開できる事業規模に育ってほしいと思う。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。