社会福祉法人暁雲福祉会(大分県・大分市)

大分県内の共同受注・共同生産を牽引する「ウィンド」の取り組み

社会福祉法人暁雲福祉会の概要

暁雲(ぎょううん)福祉会は、「八風園」(生活介護事業・自立訓練事業)、「八風・be」(就労継続B型事業)、「ウィンド」(就労継続A型事業・就労移行支援事業・自立訓練事業)を運営する社会福祉法人である。この他、グループホーム「八風・マナス1,2,3,5」やケアホーム「八風・カルナホーム」等の生活施設を運営し、2008年には大分キヤノン株式会社との合弁により「キヤノンウィンド株式会社」を設立した。

法人の設立者である丹羽演誠理事長は僧侶であり、長きにわたり保護司や人権擁護委員、保育園園長等を勤め、法人化する前から佛教福祉の実践を重ねてきた。1978年大分県で初めてとなる小規模作業所を寺の境内に開設したのが、現在の暁雲福祉会の始まりである。その後、現理事長丹羽一誠氏のもと、障害サービス事業所「八風園(多機能型)」、「八風・be(就労継続支援B型)」、「ウィンド(多機能型)」、「キヤノンウィンド株式会社(大分キヤノン株式会社との合弁会社)」と障害の種類と特性に合わせたさまざまな働く場を作りだしてきた。

法人名の「暁雲」という言葉には、「夜明けを染める暁の雲は始まりの色であり、福祉を先駆的に取り組む思いが込められている」のだという。知的障害者の自己表現の場づくりにも積極的に取り組み、知的障害者の書道やアートを広める活動(作品展や書道カレンダーの制作販売)や、ミュージックセラピーを導入してきた。

現在、ミュージックセラピーは週二回のセッションを繰り広げる本格的な活動となり、利用者だけでなく職員や地域の子どもたちや社会人ボランティアも参加する。いわば音づくりを通じたノーマライゼーション活動の実践であり、さまざまなホールでコンサートや音とコラボする朗読の会も開かれるようになっている。地域社会のなかで障害者が生活することの理想像を追いかける暁雲福祉会を象徴する活動であるともいえる。

多様な働き方の選択肢を用意するのが、法人の特色

作業品目としては、「八風園」がカレンダー(押し花カレンダーと書道カレンダー)制作・公園清掃、「八風・be」がクッキー・焼き菓子製造、「ウィンド」がパン製造である。「八風・be」と「ウィンド」は別施設・別工場ではありながら、どちらも「森のクレヨン」という共通ブランドで商品展開し、地域の人たちに少しでも商品が広まるような工夫をしている。

「『森のクレヨン』というブランド名は、パンやクッキーを作るときの各種工程を24色のクレヨンに見立てて付けました。卵を割ったり、小麦粉を計量したり、生地を練ったり、さまざまな作業があるでしょ? 重度の障害者の中には、それぞれ一つだけの工程しか担当できない人たちもいますけど、どれ一つ欠けても美味しいパンやクッキーは焼けません。さまざまな色が混じり合って素敵な絵画が生まれるように、みんなの力が合わさって美味しい商品が完成するのです」と語るのは、「ウィンド」施設長を兼務する丹羽和美常務理事だ。

「スタート時はほとんどの人たちがいくつかの工程しか担当できませんでしたけど、11年目でやっと全ての工程をこなせる人ができたんですよ。粉の計量から、生地づくり、焼き入れ、袋詰め、そして販売担当までです。知的障害者の場合、得意・不得意の差が大きいので、全部の工程をこなせるというのは本当に難しいんですけど、よくここまで成長してくれました」

まるで自分の子どもを見つめるように、目を細めて嬉しそうに語るのが印象的である。事業的には、「ウィンド」における森のクレヨン(パン製造)のみの実績として年間売上が2,800万であり、工賃は1日6〜7時間労働で最高工賃102,060円/月、平均工賃50,962円(H21年度実績)という数字となっている。もちろん数字だけでなく、多彩な施設形態と支援サービス、作業品目を用意しているのも暁雲福祉会の特色だ。主体はあくまで当事者たちにあり、自分にあった働き方を選択できるようにしているのである。

たとえば「八風園」は、「はい」「ごめんなさい」「ありがとう」の三つの言葉をきちんと生活の中で使い分けることを支援するサービスを中心に展開する施設、「八風・be」は自分が得意な仕事を実践の中で模索する施設、「ウィンド」は本格的に自立をめざして働く人たちをサポートする施設という種類分けだ。「1. 文化的な展開」「2. B型からA型へのステップアップ」「3. 障害特性に合わせた職種メニュー選択」という三つの要素が、法人の中できちんと確立されている。

どんなに重度の障害者でも、サービスを提供する側がさまざまな職種メニューを用意できれば、その人にあった働き方を必ず見つけられるはずである。丹羽和美施設長はこのことを「その人にあったステージを用意すること」と表現している。大切なことは短絡的な数値目標では決してなく、一人ひとりにあったステージの発掘である。彼女の言葉は、そのことを見事に一言で代弁している。

三つの施設に続き、永続的に働ける理想の会社を設立

三つの施設に続いて、暁雲福祉会が2008年に大分キヤノン株式会社(以下、大分キヤノン)と合弁で設立したのが、キヤノンウィンド株式会社(以下、キヤノンウィンド)だ。それまで「ウィンド」の就労移行支援事業において大分キヤノンで企業実習をおこなってきたのだが、一年以上の実習成果からその労働者性が認められ、共同出資(大分キヤノン800万円、暁雲福祉会200万円)により、知的障害者5名が働く新しい企業を設立することになった(障害者雇用促進法に基づく特例子会社)。現在では知的障害のある社員は10名、管理・支援社員11名(兼務含む)の総勢21名の規模にまで拡大し、就労移行支援事業(ウィンド:チャレンジ班)13名の受け入れもおこなっている。2012年には知的障害者30名の雇用をめざしている。

作業内容は、大分キヤノンが生産するデジタルカメラのストラップや電池パックといった付属品や保証書類の袋詰め作業である。製造現場では正確さが求められ、部品や書類が一つでも不足すると不良品となってしまう。そのため袋に入れる備品の種類や数、入れる順番などが細かく決められており、こだわりの強さがものをいう。この仕事の特性にあった障害者を的確に配置することで、一般的には「仕事に就くのは難しい」と判定された人でも、驚くような作業能力を発揮するようになるのだという。

キヤノンウィンドの代表取締役には大分キヤノンの村野誠社長が就任し、丹羽常務理事も取締役として経営参加する。重度知的障害者雇用を主たる目的とした民間会社と福祉団体が合弁会社を作るというこのような取り組みは、全国でも特に珍しいモデルである。

「私がどうしても実現したかったのは、障害者たちがいつまでも働き続けられるという体制作りでした。せっかくステップアップして企業に就職しても、個別フォローがないために施設に戻ってきてしまう事例はたくさんありますよね。キヤノンウィンドではそれだけは避けたかった。そのため、職場に仕事のやり方等をつねに相談できるサポートスタッフを5:1の比率で配置しました。この配分比率がポイントです。もう一つは、経営参加する二つの組織の役割分担を明確にしたことです。大分キヤノンは作業環境の提供と経営を支援する役割、暁雲福祉会は人材提供・日常サポートなどの福祉支援をするという役割です。お互いの得意分野を提供し合うことが、知的障害者の雇用を広げる上で大切だと思います」と、丹羽施設長。

大分県の障害者雇用率は、2.15%(2009年6月)と全国3位だが、知的障害者に限ってみると0.35%という数字に過ぎない。そのためキヤノンウィンドにおける実績が、関係者の間でも大いに注目されているらしい。所得保障の面でも、1日6.5時間労働で月額給与9万円前後、しかも社会保険完備の好待遇となっている。

「チャレンジ! おおいた福祉共同事業協議会」の中心を担う

ところで大分県では2008年おおいた国体が開催された際に、日本セルプセンタースポーツ文化事業を推進する組織として「チャレンジ! おおいた福祉共同事業協議会(会長 丹羽和美氏)」が設立された。この中心を担ったのが、暁雲福祉会の「ウィンド」である。さまざまな地域に散在し、規模もかなりの差がある大分県内の障害者就労施設の数々。そんな11法人14施設をまとめ上げ、おおいた国体の会場で「めじろん」というキャラクターを前面に出したお土産クッキーを共同で製造販売するという挑戦であった。

単にお土産用クッキーを大量に生産するだけなら、県内でも最も生産能力が高いであろう就労継続A型施設「ウィンド」の工場を最大限稼働させれば良い話である。しかし1法人だけの取り組みにせず、あえて11法人に声をかけて協議会を設置し、共通レシピによる共同製造・共同販売にこだわったのは「クッキー製造設備を持つ県内施設において、全体のレベルを高める必要があると思った」からだと丹羽施設長は力説する。

「福祉施設である限り、同業者はライバルでなくて仲間だというのが私の考え方です。全体のことを考える発想がなければ、社会における知的障害者への理解につながらない。それに同じ県内でも、施設によって利用者たちの工賃がまるで違うという現状は正さなくてはいけないと思うのです。少しでも同じ数値レベルになるように、みんなが努力したい。そのために全体が集まって情報共有をし、それぞれのハード設備や製造能力を検証して、勉強会も重ね、一緒に製品を作る。そんな機会を与えられたのはとてもラッキーなことでした」

結果として「チャレンジ! おおいた福祉共同事業協議会」では、トータルで18,000箱のお土産クッキーを製造。5,110万円にも及ぶ販売実績を作り上げることができた(関連グッズ販売利益も含む)。純益としては1,470万円にもなり、製造比率によって利益を14施設で分配したのである。この取り組みまでは、一枚0.3円のシール貼りをしていた施設もあった。今回のチャレンジがいかに貴重なものであったかは想像に難くない。工賃倍増のかけ声の下、なかなか体質改善が進まない小規模施設にとっての最適のカンフル剤になったはずである。

イベント終了後のアンケートを見ても、「やればできることがわかった」「デザイン・検査・販売ノウハウ・行政交渉など、単独施設では困難な事業が共同だからこそ実施できた」「メーカーから提供されたレシピを共同で製造する等の取り組みも実施したい」「良い商品ができ、大きな販路が開拓できれば、また他施設と共同で製造することも可能だ」「大切なことは、各施設が共同生産と独自企画の双方の動きを続けることだ」「単独施設でも頑張るし、共同でも頑張る。それが結果的に全体のレベルを引き上げることになると思った」との声が寄せられた。なにより利用者たちからも「忙しかったけど、仕事がいっぱいで楽しかった」「またやりたいと思いました」という意見が多数を占めたというのには驚かされる。

「チャレンジ! おおいた福祉共同事業協議会」は本来、おおいた国体限定の組織であったらしいのだが、2009年より新たに8法人11施設で再スタートを切り、大分県内共同事業の新たな展開を模索し始めた。具体的には災害などの非常時に食べるオリジナル商品「防災クッキー」の企画製造販売や、大分県庁舎内にオープンさせた「けんちようのパン屋さん」運営等の事業である。日本セルプセンター・スポーツ文化事業における課題として、共通事業の多くは一回限りのお祭りで終わってしまうことが挙げられている。イベント終了後も事業が継続する大分県の動きは、他県でもぜひ参考にしてほしい好事例だ。(「チャレンジ! おおいた福祉共同事業協議会」の具体的な活動内容は、『スポーツ文化事業マニュアル・実践モデル報告書/大分モデル』として日本セルプセンターより冊子が発行されている)

共同生産活動から生まれた成果で、さらに新しい展開へ

「チャレンジ! おおいた福祉共同事業協議会」の中心的役割を担った経験は、暁雲福祉会自体にも大いなる成果をもたらした。「職員たちが外の世界を体験できたことが一番大きいですね。クッキーの製造販売を通じて、仕入れ業者やデザイン会社、販売店の皆さんなど、これまでお付き合いできなかったようなさまざまな人たちと一緒に仕事をすることができましたから。それに県内の他施設の実態も把握できたのは、とても良いことでした。共同作業をする上で大切なのは、外の世界を知ることと、自分たちの立ち位置をきちんと把握することだと思います。」(丹羽施設長)

こうした体験を通じて、暁雲福祉会独自の取り組みとして「一般市場に通用する」「ピカリと光る」商品開発に乗り出した。その結果生まれたのが、「おからクッキー」である。消費者の健康志向が高まり、より安心・安全な食べ物を求める人たちが多くなってきた現代。そこで無農薬栽培の県内産大豆を使用している有名な豆腐店からおからを購入し、クッキーの素材とすることにした。豆腐を作る過程でできるおからを使うわけだから、いわばエコなお菓子ということになるし、栄養分もたっぷりというのもウリになる。

オリジナルのアイデアとして、おから含有量が「10%」・「20%」・「30%」の三種類のクッキーバリエーションを用意した。含有量によって明らかに変わるおからクッキーの味を、あえて楽しんで比較してもらおうという試みだ。このような遊び心あふれる商品開発が実現できたのも、まさに共同開発で培ってきた経験ゆえといえるだろう。衛生・安全管理の手順も、共同開発の際に確立した手順や基準を踏襲。勉強会で学んだ職員たちが、パッケージデザインにも力を入れた。販路開拓では、チャレンジクッキーを取り扱ってくれた関係者にアタックし、県内最大百貨店であるトキハ本店での販売が始まっている。

共にタッグを組む県内の施設を牽引しながら、事務局役を買って出る施設自身も着実に成長をめざしていく。「共同受注・共同生産」という難しいテーマに挑み続ける暁雲福祉会の取り組みに、是非今後も注目していきたい。

(文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。