社会福祉法人正和会 (鹿児島県鹿児島市)

ホスピタリティマインドで利用者ニーズの実現に取り組む「なごみ苑グループ」社会福祉法人正和会

社会福祉法人正和会の概要

正和会は、多機能型事業所「障害者生活・就労支援センターなごみ(以下、『なごみ』)(就労継続支援A型事業・就労継続支援B型事業・就労移行支援事業・生活介護事業)、知的障害者入所授産施設「なごみ苑」を運営する社会福祉法人である。この他、在宅福祉支援センターや五棟のグループホーム・ケアホーム事業も展開する。

近くには薩摩藩主・島津家久の菩提寺として栄えた慈眼寺があり、桜や紅葉の名所として栄えている。天気がよい日には施設の庭から、錦江湾に聳える桜島をしっかりと眺めることができる。

現在の作業品目は、菓子製造(パン・クッキー・黒糖菓子・スイーツ・ケーキ)、工芸作業(さをり織り)、園芸作業(ハーブ栽培・養鶏・野菜栽培)、ハウスキーピング(施設内清掃)、喫茶店「ラウンジ・アドリア」運営、軽作業(受託作業)、レストラン「ピースフルガーデン」経営と多岐にわたっているのだが、中心となるのは菓子製造とレストラン経営である。

法人運営の中心を担う有村茂樹副理事長(61歳)が、全日空ホテルのレストラン・バー・宴会マネージャーを歴任してきたという異色の経歴を持つ人物であることから、自然と飲食関係の事業を中心とする作業構成となっている。

有名ホテルの飲食部を仕切ってきた経験で、新製品を続々開発

飲食のプロでもある有村副理事長は、顧客がどんな商品を求めているかを常に研究し続けてきた。調理師等の専門免許は持っていないというが、長年現場を仕切ってきた経験により、和洋中あらゆる料理を調理できるノウハウを持っている。現在「なごみ」で製造しているほとんどすべての製品は有村副理事長が開発してきたものだ。流おこなっている製品の話題を聞くと、レシピを考案して現場に試作品の指示を出す。その数たるや、年間で20〜30種類になる。毎月2点以上は試作を繰り返している計算である。

「出張に行くと、できるだけ目新しいお菓子を見つけるようにしていますね。話題の商品とか、地方性豊かな商品とか。売れているモノの中には必ず新製品開発のヒントがあります。クッキーやサブレ等の定番製品でも、流行の味をチェックしておきます。新しい製品を開発すると同時に、売れ行きが芳しくない既存製品はどんどん見直していく必要があるのです」

こうした有村副理事長の考え方が、なごみ苑特有の「売れ筋製品」がずらりと並ぶ商品ラインアップを作り上げてきた。各種パン、クッキー類を初めとして、ラスク、生キャラメル、塩キャラメル、焼ドーナツ、マフィン、クリーム生プリン、ワッフルといった商品群である。バレンタイン時期には生チョコレートの製造もするし、クリスマス時期には3,200円〜53,00円の生ケーキを1,000個以上も、職員総出で製造し、それらを手分けして配達する。

決して広いとはいえない製菓工場で、これだけ多彩な製品を作り上げているというのだから驚きの一言である。たった2台のオーブンで、次から次へと順番にさまざまな商品を焼き上げていく。通常の日ですらこうなのだから、イベントシーズンの現場の忙しさは、尋常ではないはずだ。そんな中でもレベルの高いスイーツを次々に開発し続ける柔軟な発想と、実際に作り出せる技術力。それが「なごみ」製菓部門の大きな特徴と言えるだろう。

廃物利用の「わけあり商品」が、一転して大ヒット商品に

さまざまなラインアップを揃える中で、現在中心的な商品となっているのが鹿児島名物の伝統黒糖菓子「げたんは」、「岩(がん)がんたれっ」、「ぱんブリュレ」である。これらの商品だけで、「なごみ」が作る全菓子売上の1/3を占めるほどになっている。

まずは、「げたんは」である。これは、「下駄の歯」を意味する鹿児島地方に昔から伝わる伝統菓子だ。黒砂糖、卵、小麦粉、重曹を練って寝かせた生地を成形してオーブンで焼き、黒砂糖で作った蜜を表面に塗って乾燥させるというシンプルな味の駄菓子である。まったく同じ製法の菓子を九州他地域では「黒棒」と呼んでいるが、鹿児島ではなぜか「下駄の歯」のような独特の台形に切りそろえて作られてきた。

この素朴な伝統菓子をさらに一口大に切りそろえ、食べやすい形にしてパック化したものが「岩(がん)がんたれっ」である。もともと「げたんは」を作る過程で台形の形に切るときに、どうしても切れ端ができてしまう。この余剰部分をなんとか商品にできないかと考えた結果生まれたオリジナル商品なのだ。

「『がんたれ』というのは、鹿児島弁で『はずれモノ』『規格外』という意味なんです。本来なら捨ててしまう、いわばわけあり商品だったのですが、サイズがちょうど食べやすいと評判になりました。形がころころした岩みたいなので、『桜島溶岩の贈り物』としたサブネーミングも良かったみたいですね」(有村副理事長)

これほどの伝統的な駄菓子になると、製造する菓子メーカーも数多いのだが、「なごみ」の「げたんは」の味は地元でも評判になっている。現在、鹿児島空港や鹿児島中央駅の売店で取り扱われる他、某有名お茶メーカーからプライベートブランド製品として発売されているほどである。黒砂糖独特のコクと甘み、そしてしっとりした柔らかさのバランスが、お茶菓子として最高の評価を受けているわけである。

「ぱんブリュレ」になると、さらに凄い売れ行きだ。こちらもフランスパンで作っているラスクの端を小さくカットして、スナック風のパッケージに入れて発売した「わけあり」サービス品の扱いだった。しかしコンビニチェーン「サンクス」の商談会でバイヤーの目にとまり、県内40店舗で発売されると「サービス品」は一挙に主役に躍り出ることになる。それまでの一年間の出荷数である4,000個を、たった1ヶ月で販売してしまう大ヒット商品となったのだ。

「売れるのは嬉しかったのですが、もともとラスクの廃物利用として開発した黒子的商品です。それが今では主役のラスクがかすんでしまうほど、『ぱんブリュレ』の方が有名になってしまいました(笑)。車のドリンクフォルダーにちょうど入るパッケージとか、食べやすいサイズにカットしたことがコンビニのお客さんのニーズにマッチしたのでしょうね」

あまりに売れすぎて生産がまったく追いつかず、現在ではスポットのみの取り扱いとさせてもらっている。当初の137円から200円に値上げするなどの販売価格設定の問題もあったが、相変わらずコンビニからの評価は高いらしい。たっぷり使ったバターの味わいとシュガーのハーモニー、フランスパンのサクサク感が絶妙である。気軽に食べられるラスク風スナックとして、さらに多くの人たちに人気が広まることだろう。

レストラン事業で、より高い工賃も実現する

正和会では、2007年に就労継続支援A型事業としてレストラン「ピースフルガーデン」をオープンした。鹿児島県社会福祉協議会ビルの1階に位置し、10名の障害者が調理補助やホール係として働いている。営業時間は午前9時から午後9時まで。ランチタイムになると46席の店内はいつも満席となり、空席待ちの行列ができるほどの人気である。もともとここには銀行があったらしいのだが、その空きスペースを有効活用した。

「社会福祉協議会の1階というだけでなく、辺りが県庁や青少年会館、医師会病院、法務局、水道局などが立ち並ぶ官公庁街となっている立地条件が、事業的に脈ありと考えました。レストラン事業が成功するかどうかのポイントは、なんといっても立地にありますから」

と、有村副理事長。レストランで提供するのは、唐揚げ定食、チキン南蛮定食、焼き魚定食、海老フライ定食、黒豚かつ定食、黒豚ソースカツ丼、黒豚カツカレー、シーフードカレー、カルボナーラ、ペペロンチーノといった、幅広いメニューの数々だ。これらの料理を、四条司家「第四勲位初料匠」等の実技資格を持つ一流のコックたちが調理して提供する。美味しい料理が気軽な価格で食べられるとあって、「ピースフルガーデン」はオープンと同時に一躍人気店となったのである。

「やっぱりお客さんは、ランチタイムに集中してしまいますね。この時間をいかに効率的に回転させるかが、つねに課題になっています。そうはいっても、客席には限りがあります。そこで力を入れているのが、テイクアウト。幸い、社協を中心に付近のビルには研修会場が多いので弁当の注文はけっこうありますよ。社協ビル内なら、店のメニューをそのまま職場まで出前もします。弁当の配達と出前が重なる12時頃は、毎日戦場のようですね(笑)

10名の利用者たちは、すべてグループホームか自宅から通勤している。交代制のため、遅番の人は勤務終了が9時を過ぎることになる。それでも毎日充実した日々を送り、「いつか独立してみたい」という大きな夢を抱いている人もいるそうだ。レストラン事業は、現在年間で約2,300万円の売上であり、平均工賃は1日5時間の勤務で約60,000円。「ピースフルガーデン」の運営によって、より一般就職に近い工賃を求める利用者たちのニーズに応えたというわけである。

福祉施設とは、究極のサービス業だ。

ところで有村副理事長は、施設の利用者のことを「利用者様」と「様」づけで呼んでいる。どうしてこのような呼び方をしているのだろうか?

「私は、福祉施設こそ究極のサービス業だと思っているのです。日本ではサービス業というと接客業の意味合いが強いのですが、本来はホスピタリティ、つまり『おもてなしの心』という意味だと思います。お客様が求めていることを考え、その要望に最大限お応えできるようなサービスを提供する。これが福祉施設において、職員に求められている役割ではないでしょうか。お客様である以上、『様』付けで呼ばせていただくのは当然のことですよ」

このような考え方から、職員たち全員に「社会福祉法人正和会」の基本概念を記したカードを配給して、毎日のようにそれを朗読させている。冒頭にあるクレド(信条)には、こう記されている。

  • 社会福祉法人正和会は、御利用者様が必要とする支援と心のこもったおもてなしを提供することをもっとも大切な使命と心得ています。
  • 私たちは、福祉サービス業として御利用者様・その御家族に正しい情報を伝え最高のパーソナル・サービスを提供することをお約束します。
  • 社会福祉法人正和会で、御利用者様が経験されるもの、それは満ち足りた幸福感そして御利用者様が言葉にされないニーズをも先読みしてお応えするサービスの心です。
近年では障害者福祉施設も、福祉サービスの提供事業者と見なされるようになって久しい。しかしここまで明確に利用者サービスを「ホスピタリティ=おもてなし」と位置づけて、事業を推進している事業所は珍しいのではないか。さすがにホテル勤務経験が長かった有村副理事長ならではの方針と言える。

これからも最高のおもてなし精神で、「利用者様」のさまざまな社会参加の要望に応え続けていくとともに、地域の「お客様」に喜んでいただけるたくさんの商品を作り続けていくことだろう。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。