社会福祉法人上横山保育会(福岡県八女市)

全国でも有数のお茶のブランドである八女茶を中心に製造する「蓮の実団地」

上横山保育会の概要

上横山保育会は、知的障害者(入所)授産施設「蓮の実団地」(2011年10月、新体系に移行予定)、知的障害者(入所)更生施設「蓮の実園」(2011年10月、新体系に移行予定)等の障害者支援施設と、保育所「西光園」を経営する社会福祉法人である。その他にも、5カ所のグループホームや知的障害者自活訓練事業、障害児等療育支援事業、障害者就業・生活支援センター「デュナミス」等の事業を運営する。さらに障害者自立支援法の施行に伴い、2006年より福岡県から認可を受けた指定相談支援事業所を開設。地元八女市等(人口約7万人)が運営する八女地区障害者等相談支援センター「リーベル」に相談専門支援員として職員を3名派遣している(内1名はセンター長)。

上横山保育会という名前が表すように、もともとは1963年に保育所「西光園」からスタートし、「蓮の実園」(1970年)→「蓮の実団地」(1973年)の順に施設がつくられていった。「蓮の実団地」という名前は、更生施設「蓮の実園」に入所した障害者が、自立をめざすために設立した園内社会復帰施設の位置づけから命名されたという。

「緑と清流のなか 鳥の声 せせらぎの音... そこには癒しの場と明日への希望がある」と法人パンフレットに記載されているとおり、八女の奥座敷、標高802メートルの耳納連山を背にした自然豊かな土地に施設は建っている。山の中腹にある「蓮の実団地」は、当時の「蓮の実園」の利用者たちにとっては自立の象徴とも言える憧れの施設だったのである。

日本一の緑茶と評される「八女茶」ブランド

「蓮の実団地」の作業の中心は、周りの大自然を活かしたさまざまな園芸作業である。中でもやはり、地元の特産品でもある八女茶の栽培が活発であり、設立当初から現在に至るまで積極的におこなわれてきた。

八女茶とは、福岡県内で生産される緑茶のブランド名であり、全国的には生産量6位に位置している。静岡や狭山といった広大な平地と違い、山の斜面につくられた茶畑は霧が発生しやすく、寒暖の差も激しいといった気候特性が、甘みのある上質の茶葉を育てることになる。茶の木を簀巻きで覆うことによって生み出される緑茶は、茶の旨味成分であるアミノ酸類が豊富に含まれ、古くから伝統本玉露として珍重されている。現在でも八女茶を「日本一美味しい緑茶」と評するお茶好きは多い。とくに玉露の質が高く、平成13年度から22年度の全国茶品評会で10年連続の農林水産大臣賞を受賞し続けている。

美味しい緑茶を育てる最大のポイントは、畑と茶木の丁寧な管理法にある。年三回にわたる剪定作業や、数回にわたる施肥、除草作業など。手間をかければかけるほど栄養分をたっぷり取り込んだ茶葉が育つことになる。結果として、八女地方独特の気候も後押しし、甘みのある最良のお茶に仕上がるのである。

しかも、「蓮の実団地」のお茶は他の茶畑で生産されたお茶を一切ブレンドしていない。そのため、茶の旨味や甘みを抽出できる最高のお茶となっている。その味は、山に囲まれた茶畑が生み出す大自然の贈り物と呼ぶにふさわしい。

「蓮の実団地」では、こうした自園自家栽培茶を一年間利用者たちが育てあげ、緑茶に加工して全国に販売してきた。売上としては、施設全体の自主製品売上の約4割を八女茶の販売が占めている。「蓮の実団地」といえば、山の奥の畑で美味しい八女茶を製造する施設。そんなイメージは、こうした実績から生まれてきた。

山の中から町中へ。次々と就職を実現する「蓮の実団地」

しかし美味しい八女茶のことを語るだけでは、決して「蓮の実団地」という施設の特徴を伝えることにはならないだろう。たしかに設立当初は、更生施設を卒業した利用者たちの仕事として、八女茶生産を初めとする各種の園芸作業は重要であった。もちろんそれは今でも基本なのだが、「社会自立」という観点からは施設の考え方は時代と共に変化している。「蓮の実園」から「蓮の実団地」への「園内社会復帰」をめざすのではなく、さらにそこから一般社会へ巣立たせる「園外社会復帰」を目標として活動を進めているのである。

上田正勝理事長(68歳)は、次のように語っている。

「設立当初からは、社会福祉全体のあり方が大きく変わってきていますからね。1981年の国際障害者年、および1983年からの国連障害者の10年を契機にして、従来の施設福祉から地域在宅福祉へと、施策の重点が移り始めました。こうした変化を受けて、当法人でも1983年から知的障害者自活訓練事業を受託し、『蓮の実団地』から一般企業に就職できる人を一人でも多く出す取り組みをスタートさせたわけです」

これまでになんと138名の利用者が、「蓮の実団地」から社会へと巣立っている。具体的な就職先は、レストランや養鶏場、牧場、クリーニング店、食品工場、老人ホーム、高等予備校などである。福岡県内はもちろんのこと、遠いところでは愛知県や高知県、鹿児島県まで就職先が広範囲にわたっているのも特徴だろう。地方の山の中の知的障害者の入所授産施設でありながら、これほど就労支援活動に積極的に取り組んでいる事例というのは、全国的にも希有の存在といえるのではないか。

上田理事長のネットワークが生み出す新世界

こうした「蓮の実団地」の実績を支えているのは、独特の上田理事長のキャラクターに尽きるだろう。九州学院大学電子工学科助教授という風変わりな前歴を持つ理事長は、この職に就くまで福祉とはまったくの門外漢であったらしい。しかし福岡工業大学在学中に柔道部に在籍、九州学院大学の教員になってからは柔道部・空手部・相撲部・ボクシング部・応援団等11の運動部の部長を兼務(しかも柔道部と応援団は、自ら立ち上げたという!)していたリーダーシップは、当時からすでに際立っていた。

ただですら先輩後輩の厳しい上下関係が卒業後も永遠に続くといわれている体育会の世界である。福岡工業大学柔道部などは、モントリオールオリンピック80kg級金メダリスト・園田勇や1969年世界柔道選手権軽量級金メダリスト・園田義男(現・校長)を輩出した、柔道の名門校となっている。今や政治家となった谷亮子も、福岡工業大学附属高校・女子柔道部の出身だ。

そんな有名人たちも、上田理事長にかかれば大学運動部の一人の後輩にすぎない。しかも理事長には、長年にわたって教鞭を執ってきた大学助教授としての顔もある。さらに福岡工業大学・同窓会会長の役職を持っており、「上田先輩」「上田先生」を慕う人々は枚挙にいとまがない。理事長の豪快な笑い声と、猛烈なスピードでたたみかけるように話すパワーに圧倒され、誰もがその世界に引き寄せられていくのである。

「後輩たちの中には、立派な社会人となって各界で活躍している人たちがごろごろいますからね。みんなに会うたびに、今自分がやっている福祉の仕事の重要性を語っています。後でどんなつながりができるかわかりませんから、人との出会いは大切ですよ。後輩や教え子たちの中で、立派な事業家になった人には『金儲けばっかりしとらんで、たまには社会貢献せえ(笑)』って、協力を求めるわけですよ。ストレートに話せば、みんな喜んで活動に参加してくれますよ」

こうした繰り返しが、『蓮の実団地』から100名を超える利用者たちの一般就労実現につながってきた。そのほとんどが、理事長の後輩・教え子たちの会社だというのだから驚きだ。八女市街から車で30分以上も悪路を登っていかないとたどり着かない施設であるにもかかわらず、この施設にはひっきりなしにさまざまな来客がある。多くが上田理事長の世界観に共鳴した人々であり、それぞれにできる協力を申し出るために山を登ってくるのである。

製品販売・就職相談・自販機設置の3点セットが営業活動の基本

そんな上田理事長の下で働く職員たちは、営業活動としてつねに「製品の販売・就職の相談・SELP自販機の設置」を3点セットでおこなっているらしい。支援室の田川晴基室長(57歳)は言う。

「施設に来ていただいたお客さんや、私たちが会いに行った人たちには、必ず3点セットをすべて話すように職員には徹底していますね。すべて話して協力を仰げば、どこかの分野で協力していただけるチャンスは広がるわけですから。理事長の強いリーダーシップのおかげで、この方針が徹底されてきました。利用者の就職先は理事長のネットワークが多いですけど、職員が独自に開拓してきた事例もけっこうあるのですよ。山の中の施設だからこそ、こちらからどんどんアプローチして協力を仰がなければ、理解は得られないですからね」

一般企業への就職実績に加えて、SELP自販機の設置実績も79台(2011年6月現在:日本一の実績)と、1施設としては群を抜いている。しかもその設置場所がすごいのだ。筥崎宮(福岡市)、櫛田神社(福岡市)、ゆめタウン博多(福岡市)、博多リバレイン(福岡市)と、名だたる観光地の一等地に設置されているため、自販機自体の売上高や広報効果も非常に高いものとなっている。ジュースの販売価格から、1本あたり31円(ペットボトルは36円)施設に戻ってくる運営資金は、月額約50万円、年額にするとなんと600万円にもなっている。電気代を除くすべての金額が、工賃として全額利用者に還元されているわけだ。お茶や干椎茸などの製品販売と同様に、職員たちがSELP自販機設置の営業活動に必死になるのも当然のことだろう。

「『蓮の実団地』のメイン商品である八女茶の売上げも、最近ではお茶のペットボトルに押されて年々下がっていくばかりです。いくら一般企業への就職を進めているといっても、重度の利用者たちの多くは施設の中で暮らしていかないといけません。彼らのためにも、SELP自販機事業の推進はとても大事な活動だと考えています。就労支援とは別に、少しでも高い工賃をめざす努力も、やはり必要なことですからね」(牛嶋竜一事業課長)。

自立生活という夢を実現する利用者たち

「蓮の実団地」には、施設→企業実習→一般就労という自立のための方程式がある。こうした流れを夢見て、施設での作業に一生懸命従事し、職員たちにアピールした結果、夢を叶えていく利用者たちも数多いのである。経済的にも施設にいると12,000円ほどの工賃に過ぎないが、実習に出ると40,000円程度の収入にアップし、一般就労できれば10万円以上の収入になる。入所施設を出て、グループホームに住み、さらにアパートを借りて、自ら免許を取得し、自家用車で職場に通う人たちも生まれている。さらには結婚して、持ち家を購入した人までいるらしい。ここまでくると、一人の人間として立派な地域自立生活を実現したといえるだろう。

「横山保育会・創立45周年記念誌」には、利用者のこんな声が掲載されている。

「蓮の実団地では、就労目的で数名の利用者が定期バスで八女市内まで実習に行っていました。その姿を見て、自分もいつか実習に行きたいと思うようになり、チャンスがあるまで灯篭班で頑張っていました。

そうした中、職員より久留米市にある『久留米トヨペット』での車の洗車実習の話があり、行ってみないかとの声掛けで頑張る決心をしました。実習が始まり最初は緊張の毎日でしたが、所長や従業員の方から『頑張ってるね』と声を掛けてもらい、多少自信が持てるようになりました。従業員の方やお客さんとの会話もできるようになり、もっと頑張って就職したいと思いました。蓮の実団地に帰ってから上田理事長に、洗車作業も出来るようになったのでトヨペットに就職したい、トヨペットに話をして下さいとお願いをしました。その後、数日でトヨペットから採用決定の連絡があり、平成2年4月1日より採用決定となりました。

蓮の実団地の利用者、職員より立派な卒業式をしていただきました。住居も職員より探していただき、引越の手続きなども協力してもらいました。現在も、アパートで生活し楽しく仕事に行っています」(M.T.さん)

「蓮の実団地」があるから、現在の自分たちがある。こうした熱い思いは、彼らに共通している。養鶏場に就職した6名の卒業生たちは、自分たちの給料で卵を段ボールのケースごと購入し、順番に「西光園」や「蓮の実園」に届けているというのだ。上田理事長は、このエピソードを嬉しそうに語ってくれた。

「タイガーマスク運動というのが流行っていますけど、彼らは何年も前からそんな活動を続けているわけですよ。自分たちの後輩に、自分が作っている卵を食べてもらいたくて仕方ないのでしょう。みんなが交代に毎週のように卵を運んでくるから、施設の給食係は卵を一度も買ったことがないって喜んでいますよ(笑)

大学の後輩や教え子たちだけでなく、施設の職員や利用者たちも理想の世界を求める上田ワールドへと誘ってしまう。それが「蓮の実団地」という施設である。理事長の豪快な笑い声と鋭いアドバイスを求めて、今日も誰かが耳納連山の細い山道を車で登っているはずだ。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。