社会福祉法人周防学園(福岡県豊前市)

周防灘を見下ろす小高い丘の上で、自然と人とのハーモニーを追求する、社会福祉法人周防学園

周防学園の概要

周防学園は、知的障害者入所・通所授産施設「周防学園」(2011年10月新体系移行予定)と老人保健施設「ほうらい山荘」を運営する社会福祉法人である。この他地域生活施設としてのグループホーム(のぞみ・ラポールⅠ・ラポールⅡ)や、地域生活支援センター「すおう」等の事業も実施している。豊前平野と周防灘を見下ろす小高い丘の上に、広大な果樹園と畑が広がっている。そこに建っているのが、「周防学園」である。豊前海を一望できる素晴らしい大自然の中、「自然と人とのハーモニー」をテーマとしてさまざまな障害者に対する生活・就業支援をおこなってきた。

作業品目は、蔬菜(米・野菜)・果樹等の農園作業、クリーニング、紙器加工、簡易作業、プラスチック成形、うどん店経営等、実に多岐にわたっている。利用者一人一人の特性に合わせ、できるだけ多種の作業場を用意することにより、それぞれが働く喜びを感じられるようにする。「周防学園」という施設は、そんな考え方で運営されている。

「周防学園」の歴史を作ってきた農園作業

「周防学園」といえば、やはり施設の周りに広がる広大な果樹園や畑が思い浮かぶほど、大規模な農業作業を実施している施設として全国的に知られている。施設に向かう途中にも、「ぶぜんフルーツランド」と称する観光農場が目についた。ここでは、ほぼ一年にわたってイチゴ狩り(1月〜4月)、ぶどう狩り(8月〜9月)、クリ拾い・イモ掘り(9月〜11月)、みかん狩り(10月〜11月)等が繰り広げられている。山田農場という企業が経営するこの観光農場の、日常的な作物等の手入れを任されているのが「周防学園」とのこと。施設を訪れた人が、学園の農場だと勘違いするのも仕方あるまい。

柚田(ゆうだ)正昭施設長(64歳)は、周防学園の農業作業について次のように語ってくれた。  「農作業は学園の設立当初からのメイン作業でしたけれど、ここ十数年は農業優だ以外の作業を増やしてきたのも事実ですね。設立40年を経て、利用者の平均年令も50歳を超えています。若いときには太陽の下で汗を流す作業が楽しかった人たちも、体力が落ちてだんだん農作業がきつくなってきたからです。そうはいっても、安心安全な農作物を作ることはとても重要な仕事。安定的に収入を得られるというメリットもあるので、今後も学園の基本事業として続けていきたいと考えています」

果樹園以外の畑では、トマトやキュウリ、ジャガイモ、タマネギ、長ネギなど季節に応じた各種の野菜が栽培され、収穫した野菜を地域の道の駅や学校給食などに販売されている。取材当日は幸いにして好天に恵まれ、太陽が煌々と照る中、土にまみれて汗を流す利用者たちの表情が活き活きと輝いていた。室外作業を好む人にとって、自然の中で働けることの喜びは大きいことだと思う。

農作業の大きな柱が、米の生産である。「周防学園」が位置する豊前地方は、福岡県有数の米どころ。自然豊かな豊前の山間に広がる棚田で生産される米(豊前米)は、全国的にも高い評価を得ている。しかし最近では専業農家の減少によって水田管理を厭う人たちが増えてきた。「周防学園」ではそんな近隣農家の田んぼを貸してもらって米の生産を続けてきたのだが、次々と寄せられる依頼を受けた結果として、約11ヘクタールの規模にまでなった。

「米に関しては、自ら望んだというより、まわりに望まれて規模が拡大してしまったのが現実ですね。現在の生産量は、約42トン。30キロの袋にすると、1,300袋になりますか。水田はいろんな場所に点在していますから、生産効率が悪いし、規模がここまで大きくなると農機具の購入にも膨大な費用がかかります。採算性を考えると迷うところですが、地域から望まれていることですからね。地域貢献と割り切って進めています。それに美味しくて安全な米をつくることも、福祉施設としては重要な役割だと思いますしね」

高い工賃を得るための新しい取り組み──プラスチック成形工場

利用者の高齢化が進む「周防学園」では、メイン作業をこれまでの農業から変えるための取り組みがここ十数年前から進められてきた。その一つが、プラスチック成形工場の設立である。2006年に施工された障害者自立支援法により、障害者就労系施設でも一般就労へと移行することを目的とした事業の取り組みが強く求められるようになった。地方の入所授産施設としては非常に難しい面もあるのだが、「周防学園」が取り組んだのが「他企業に頼ることなく、利用者が安心して働き、高工賃を得られる工場の設立」という選択であった。

具体的には自動車関連部品やペットボトルの特殊キャップやとうふトレーの成形をおこなっている。この事業がスタートした当時は、近くに日産やトヨタなどの自動車関連企業の設立が相次いだこともあり、自動車部品の受注が見込まれていた。それだけでなく、完全クリーンルームの工場にして医療用・食品用などの付加価値あるプラスチック製品の製造を生産できる体制も整えている。

「園外実習として、学園ではこれまでにたくさんの利用者に地域の企業で働いてもらう機会をつくってきました。しかし限られた期間内で彼らを仕事に慣れさせ、なかなか就職に結びつけられないのが現実だったのです。だとすれば、いっそのこと法人が彼らのために工場を作ってしまおうではないかというのが、この事業の基本的考え方。法人としては、これまでの歴史を塗り替えるほどの大決断でした。設備や建物にも膨大な投資が必要でしたしね」

と、柚田施設長。現在は施設外授産事業という変則的な位置づけだが、めざすところは福祉工場(現・就労継続A型事業所)のようなスタイルである。自立生活をめざす利用者たちがグループホームで暮らし、プラスチック成形工場に通って高い給料を得られるようになれば、理想的だろう。学園の利用者にとって、工場が一般就労のための実習の場になるというメリットもある。

現在の年商は、約5,000万円であるという。数字だけ見ると周防学園の全体売上の約半分を占めるように見えるが、原材料費や機械の減価償却、工場を24時間フル稼働させるためのパート人件費等を引くと利益率は微々たるものにすぎない。しかも自動車業界全体の景気が、世界的不況や東日本大震災の影響で落ち込んでいるのも事実である。

「これだけ景気に左右される仕事とは思いませんでした。なんとか先が見えてきたと思ったら、急激に仕事が減ってしまいました。単純作業のようでいて、非常に高い精度を求められる高度な技術を要する職種でもあります。理想の実現には、まだまだ相当時間がかかりそうですね(前田常吉工場長)」と、現場は非常に苦しい事業運営を強いられているのも現実だ。しかし今さら引き返すわけにもいかないし、景気が戻れば必ず事業は好転していくはずである。成形工場の事業はあまり悲観的にならずに長期的スパンで捉えていきたいと、柚田施設長はフォローしてくれた。

うどん店のオープンで、若い利用者のモチベーションがアップした!

もう一つの取り組みが、プラスチック成形工場とは180度違った「豊前屋官 べえ」といううどん店の経営である。大規模な設備を導入した機械工場に対し、こちらはサービス業としての食品販売だ。店が建っているのは、国道10号線沿いの好立地。しかも店舗面積259坪の本格的な店構えのうどん専門店として、 2006年にオープンした。

「サービス業に就きたいという利用者のニーズが多かったので、それなら法人独自で店を持とうということになったのです。幸い、九州では有名なうどんチェーン店の協力を仰ぎ、生麩を練り込んだ独特の麺の製造法を教えてもらいました。おかげさまで地域ではとても美味しいうどんを出す店として、すっかり定着してきたようですよ」(桐川副施設長)

店の開店は、午前11時。この時間になると、オープンを待つお客さんで店の前には毎日行列が出来ている。1日の来店者は、約220名〜400名。土日になると、500名を超える日も珍しくないという。

「500名を超えると、さすがに休む暇もない忙しさですね。近隣のどの店も商売が厳しいと言われているなか、嬉しい悲鳴ですよ。利用者たちの接客も、最近では安心して見ていられるようになりました。開店当初は、ちょっと注意しただけで機嫌を損ねてしまい、トイレに籠もってしまう娘もいましたが、なんとか時間を作って彼女らをなだめて連れ出してくる。そんな繰り返しで、やっと安定して仕事をしてくれるようになったのです(笑)(中野課長)

「豊前屋官べえ」で働くことによって、大きく成長した利用者もいる。田島健一さん(23歳)が、その代表格だ。それまでは学園内の作業になかなか適応できず仲間とうまくなじめなかったらしいのだが、職場が変わってあきらかに仕事に対する意欲が変貌した。現在は、ホールスタッフとして顧客の注文取りを中心にして、場合によっては揚げ物の担当までこなしているという。耳にピアスをし、顔なじみの顧客とは世間話までこなす姿は、利用者の一人とはとても思えないほどである。

「若い利用者のモチベーションを高められたことが、うどん店経営の最大の成功ですね。繁盛しているといっても、単価が安いうどんですから経営的にはまだまだ。好立地の店ですから、家賃も非常に高いですしね。でも夜の宴会メニューも好評なので、これからもっともっと稼いでもらって利用者たちに高い工賃を支払える事業に育てていきたいです」と、桐川副施設長。美味しいうどんの店としてここまで有名になった実績を考えると、2号店3号店出店という夢もそう遠くない時期に実現してしまう可能性は十分にありそうだ。

「働く・暮らす」に加えて、「老後の安心」も重要なテーマ

このように、「周防学園」の事業はこれまでの農業一辺倒の時代からは相当の変革を遂げている。高齢化の進む利用者の作業負荷低減と、高い工賃を求める若い利用者のニーズに沿って進んできた結果である。入所施設といえども、これからは積極的に利用者の地域移行と一般就労の道を進めていく必要がある。それが全国社会就労センター協議会(セルプ協)の掲げている「障害者の働く・暮らす」というテーマともまさに一致する。しかし、それだけでは不十分ではないかと 柚田施設長は力説する。

「高齢化の進む『周防学園』の利用者にとって、『働く・暮らす』ことと同様に、『老後の安心』がとても重要な問題なのです。年を取って重度化した障害者の受け入れ先は、現実的にはありません。彼らが安心して暮らせる場所の確保が、これから大きな課題になってくると思います。法人としては、その対策の一つとして老人保健施設『ほうらい山荘』を作ったわけですが、今の法律では永住できるわけではありませんからね」

利用者たちの中には、作業中に心臓発作を起こして亡くなってしまう人もいれば、亡くなった後誰も引き取り手がいない人たちもいる。悲しいことだが、それが現実である。現在の福祉制度ではそんな彼らの処遇を安心して任せる体制が整っていない以上、施設が最後まで面倒を見る覚悟を持つのも大切なことではないか。

それが「周防学園」の創設以来の基本的考え方なのだという。そのため施設内に作られた父兄会館では、希望する場合に誰でも葬儀場(宗派を問わず)として利用できるようになっており、庭には観音様が建立され、その下には納骨堂まで用意されている。施設で亡くなった利用者の保護者や親族が寄付してくれたお金の一部を浄財として積み立て、みんなの力で建立に結びつけた結果である。

「そこまで施設がする必要はないし、それは利用者の抱え込みにつながるのではないかと批判する人もいますが、私たちは違うと思います。一人ひとりが輝くように支援するということは、万一の場合にも安心して施設が面倒を見てくれるというパックアップが大切だと思うのです」

と、柚田施設長。さまざまな取り組みをおこなっている「周防学園」だが、周防灘を見下ろす小高い丘の上に建っている観音様の存在こそが、この施設の考え方を象徴しているように感じた。寡黙であるが、凛とした優しいまなざしで、利用者たちの生活を永遠に見守っている。それが「周防学園」という施設の姿なのである。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。