NPO法人オレンジワークの会(熊本県熊本市)

安心・安全に育てられた温州みかんを使って、ストレートジュースを製造

オレンジワークの会の概要

オレンジワークの会は、「オレンジワーク」(就労継続支援A型事業・就労移行支援事業)を運営するNPO法人である。この他、「オレンジホーム」(共同生活援助・共同生活介護事業)も運営する。

事業開始のきっかけとなったのは、約40年も昔の話に遡る。寺本禮次理事長が経営していた果実園で、知り合いの養護学校の先生に頼まれて一人の障害者を住み込みの実習生として受け入れたのが始まりだった。30ヘクタールもあるという広大な急斜面の果実園の仕事には多くの人手が必要ということもあり、実習生はいつの間にか7名にまで増えていった。

住み込みで働く障害者たちの世話は、すべて寺本夫人がおこなっていたという。さすがにここまで増えると彼らの生活支援だけでも相当の労力を使うため、関係者のアドバイスもあって2004年にNPO法人を設立する。福祉制度を活用し、「オレンジホーム」というグループホーム・ケアホーム一体型の施設としたのである。さらに利用者が10名に増えた2012年に、就労継続支援A型事業所・就労移行支援事業所「オレンジワーク」を開設することになった。

このようにオレンジワークの会は、一般的な施設や福祉サービス事業所の開設とは一線を画している。すでに障害者が働く場や生活する場が存在していたものを、新しい福祉制度に当てはめてリニューアルできた典型的な事例といえるだろう。(法人設立と同時に寺本果実園の経営は長男・寺本晶尚氏に譲り、禮次氏は現在NPO法人理事長の仕事に専念している)

作業としては、寺本果実園で栽培された減農薬みかんを使ったみかんジュース「おっぺしゃん」の製造販売、各種乾燥野菜の製造販売、季節の花の栽培に加えて、寺本果実園の果実栽培の補助(樹木の手入れ、果実の採取、果実の箱詰め、果実の洗浄等)等となっている。

売り物にならない傷物みかんを、美味しいジュースに再加工

オレンジワークの代表的な商品は、なんといってもみかんジュース「おっぺしゃん」である。「おっぺしゃん」とは、「けっして別嬪さんではないが、気立ての良い人気者」という意味の熊本弁だ。寺本果実園では、熊本型特別栽培農作物「有作くん」認定の減農薬栽培による温州みかん・河内晩柑・デコポン等の柑橘類を栽培している。

海と山が隣接している熊本県・河内地方。日照量も多く暖かい上に、海からの潮風も受けるために寒暖の差が激しく、最高品質の柑橘類が育つと高く評価されている。しかし寺本果実園では最低限の農薬しか使わない減農薬栽培のため、虫食いや日焼けによって売り物にならない、いわゆる規格外商品の発生率も多かった。寺本理事長は言う。

「傷物の果実は、以前はすべてタダ同然の価格でジュース用として企業に引き取ってもらっていました。もったいないとは思いつつも、農園では果実の栽培だけで手一杯。とても加工製品の製造までは手が回りませんからね。でも、これらの果実はまさに『おっぺしゃん』そのもの。みてくれは悪いけれど、味は抜群に美味しいのです。就労継続支援A型事業をスタートさせるにあたり、せっかくだから寺本果実園で採れるこのような果実を、美味しいジュースに加工して販売しようということになりました」

温州みかんの味が凝縮した「おっぺしゃん」ジュース

「おっぺしゃん」ジュースの作り方は、実にシンプルだ。まずみかんをきれいに水で洗浄し、一粒ずつ手作業で皮をむいていく。90℃のお湯に30秒程度漬けるだけで皮がやわらかくなり、手でも簡単にするりと皮が剥ける状態になるのだという。本来なら皮も食べられるほど美味しい果実であるし、一般的には皮ごと絞ってしまう企業が多いというが、オレンジワークではあえてこの工程に手間を割いている。

「わざわざ手で皮をむいてジュースにする会社なんてあまりないと思いますが、私たちは美味しさにこだわりたいと思いました。いくら食べられる皮といっても、どうしても独特のえぐみが出てしまいますからね。もちろんむいた皮は捨てるにはもったいないので、砕いてペースト状にして再利用しています。パンやケーキを作っている他の障害者施設に、天然の香料として使ってもらっているのですよ」

皮を剥いたみかんは搾汁器に入れ、純粋な果汁だけを取り出していく。製造工程としては、ほぼそれだけである。まさに温州みかんだけを使ったストレート果汁100パーセント。もちろん砂糖や香料や保存料などは一切添加していない。市販の濃縮還元ジュースと違って、果実の新鮮な香りと味が活かされた純粋なみかんジュースとなっている。

「味には絶対の自信がありますね。なにしろ20年以上も前から、私自身が安全・安心な栽培方法にこだわって育ててきたみかんを原材料にしているわけですから。殺菌方法も82℃で10分間(季節によって温度や時間は変動する)という低温殺菌を採用しているので、みかんの風味や色合いや栄養価の低下が最低限に抑えられています」と、寺本理事長。

かくして運悪く別嬪さんに育つことができなかった傷だらけの「おっぺしゃん」たちも、美味しいジュースに加工されることによってお客さんのところに無事嫁入りすることができたというわけだ。この過程は、「おっぺしゃん物語」としてオレンジワーク販促資料(ポスター・チラシ)等に、味のある熊本弁を使って可愛くイラスト化されている。日本セルプセンターが2011年度に「真心絶品認定施設の商品力向上のためのサポート事業」として、ラベルデザインを支援した際に作成したものだ。(日本財団の助成事業)

温州みかんの他にも、河内晩柑・デコポンのシリーズも

「おっぺしゃん」ジュースは、コクのある甘さと爽やかな後味が特徴の温州みかんの他にも、さっぱりとした甘さと爽やかな酸味が清涼感をもたらす河内晩柑、そしてしっかりした甘さと酸味と濃厚な味が特徴のデコポンの3種類がある。1本180ml入りの小瓶に入っていて、女性でも子どもたちでも飲み干すのにちょうど手頃な分量だ。

「おかげさまで『おっぺしゃん』は、たくさんのお客様から『とても美味しい』と好評をいただいています。販売は主に市内のスーパーや生協などが主体ですが、熊本城内にある県産品を販売する店でも取り扱ってもらえるようになりました。九州自動車道の北熊本S.A.では、ゴールデンウィークのイベントとしてジュースサーバーを持ち込んで紙コップ一杯200円で販売し、大人気だったのですよ」

さらにこんな商談も舞い込んできた。熊本市の中心部にある創業100年の老舗酒店・木村屋酒店の主人から、わざわざ「知人からもらって飲んでとても美味しかったので、取り扱わせてほしい」との連絡をもらったというのだ。徹底した品質へのこだわりが、1回飲んだ顧客を虜にして離さない。今後もこの商品は、口コミで少しずつその美味しさが全国へと広がっていくことだろう。

ちなみに「おっぺしゃん」は、アマゾンドットコムや WIKI kumamoto熊本よかばいネット等でもネット販売をおこなっている。「みかん」「河内晩柑」「デコポン」、どの商品も180ml入りの小瓶が8本セットで1,700円(税込・送料別)、12本セットで2,550円(税込・送料別)。「おっぺしゃん物語」と書かれた可愛いシールの付いた箱入りセットである。贈答用にも最適の商品といえるのではないか。

地域の耕作放棄地を整備し、新商品づくりにも乗り出す

オレンジワークでは、「おっぺしゃん」に続く商品として乾燥野菜の製造も始めている。近くの畑で利用者たちが収穫した季節の野菜を、新鮮なまま乾燥野菜に加工したものである。しょうが、干し芋、たけのこ、しいたけ、トマト、ひともじ(わけぎ)、みかん、大根、ゴーヤ、唐辛子、れんこん、どくだみ茶...等々、素材の旨味を凝縮した逸品として好評を博しているらしい。

さらにこうした乾燥野菜を栽培する畑を拡大するために、熊本県や熊本市がおこなう耕作放棄地活用事業にも積極的に乗り出した。これは高齢化が進む地方の農村において、荒廃した耕作放棄地を再生することに対して交付金が支払われるというものだ。2012年には熊本県の「みんなで取り組む耕作放棄地活用事業」に参加し、完全に荒れ果てた471平方メートルの土地をトラクターで開墾。サトイモやキャベツ、レタス等を収穫できる畑にまで再生させた。寺本理事長は言う。

「これらの事業に参加するのは、私たちの組織が国の財産を守ることにも貢献すべきだと考えているからです。福祉関係者というのは、ともすれば国から予算をもらうことに慣れてしまっている傾向がありますからね。耕作放棄地の問題は、本当に深刻です。これからの時代、日本全体で食糧自給率をもっとあげていかなくてはなりません。そのために国の財産である畑を守ることも、私たちに課せられたテーマだといっていいでしょう。もちろん畑を耕すことで助成金を得て、さらに多くの野菜を栽培することができるのも大きいです。いわば、理念と実利の一石二丁ですね(笑)

このような視野の広さを持っているのも、さすがに民間果実園を長い間経営してきた寺本理事長ならではというところだろう。果実園時代から雇用する障害者たちの結婚相手探しまで引き受け、一人の人間としての幸せの実現をサポートし続けてきた「世話好きのお父さん」。そんな寺本理事長の下で、これからも多くの障害者たちが元気に働き、美味しい商品を作り続けていくことだろう。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。