社会福祉法人宮崎県大島振興協会(宮崎県宮崎市)

最高級の漆器製造で、日本の伝統美を守り続ける「大島授産場」

宮崎県大島振興協会の概要

宮崎県大島振興協会は、大島授産場(生活保護授産施設)、大島身体障害者授産所(生活介護事業・就労継続支援B型事業)、大島身体障害者通所授産所(就労継続支援B型事業)を運営する社会福祉法人である。

法人の設立は太平洋戦争の末期に遡る。沖縄等の西南諸島から強制疎開によって住み慣れた地を追われた人々が、続々と宮崎に移住してきた。敗戦のため不要になった航空関連工場の社宅に住んでもらうことで住居は確保できても、働かなければ生活することができない。そこで彼らのために県営授産場として作られた職場が「大島授産場」なのである。

沖縄からの移住者の中に、琉球塗りの職人たちが多数いたこともあり、彼らの技術を活かした「漆器」づくりが作業内容に選ばれた。その後施設は、社会福祉法人として時代の変遷と共に生活保護法による授産施設となり、身体障害者を受け入れる入所・通所授産施設を開設、2012年より新体系に移行したサービスを展開するようになった。

琉球塗りの流れを汲む、本格的な高級漆器「宮崎漆器」

ところで「宮崎漆器」とは何だろうか? それは、沖縄の琉球塗りの流れを汲む本格的な高級漆器のことを指す。琉球塗りというのは沖縄の伝統工芸で、室町時代から始まったとされている。その品質の高さは評判であり、中国から漆器を買うためにわざわざ使者が来たほどである。有名な守礼門(首里城門) の朱色の漆総塗り正殿には、琉球塗り技術のすべてが凝縮されている。

そんな琉球塗りに長い間携わってきた職人たちが宮崎に移住してきたことから、この地でも本格的な漆器が製造されることになったわけだ。当然ながらその特徴は、琉球塗りの流れをそのまま引き継いでいる。

  1. 漆器の価値は、下地の良し悪しで大幅に変わると言われているが、宮崎漆器は独自の秘法でその下地付を施すため、きわめて堅牢である。
  2. 朱塗りの色がとくに冴えている。宮崎の高温多湿の風土は漆の乾燥に最適地である。
  3. 独特の「堆錦(ついきん)」という加飾法で模様を付けていく。漆に多量の顔料を混入し、堅練りしたものを薄く延ばして模様を切り抜き、漆器本体に貼り付けていくという技術である。

つまり宮崎県において漆工芸が盛んになったのは、「大島授産場」が建設されてからのことであり、施設の発展とともに県を代表する伝統工芸品に育ててきたわけだ。昭和59年には宮崎県伝統工芸品の指定を受け、同年第26回日本民芸公募展において内閣総理大臣賞受賞。平成3年の第33回日本民芸公募展でも同賞を受賞するなどの栄光に輝いている。平成25年には沖縄の浦添市美術館で開催された「漆の技─TSUIKIN─堆錦」展に、「大島授産場」で制作された「朱漆雲龍文堆錦花瓶・花台」「朱漆松竹梅鶴堆錦盃台・盃」「黒漆椿堆錦銘々皿・朱漆うずら車堆錦銘々皿」の3点が出品されている。

ずっしりした重量感のヒミツは、下地付けにあり

「大島授産場」の漆器を始めて見た人が誰でも驚くのは、福祉施設で製造されたとはとても思えない本格的な仕上がりである。漆器といってもプラスチックの生地に合成塗料をスプレーガンで吹き付けただけの安価な製品が一般的になってしまった中で、ここでは頑固に伝統的な製法にこだわっている。木を刳り貫いて作られた木製生地に、何度も下地塗料(砥の粉、漆、その他の塗料を混合したもの)を塗り重ねた後で、漆を上塗りし、さらに堆錦といわれる絵柄付をおこなっていく。完成までに最低でも3ヶ月。一つひとつの工程が、職人仕事の積み重ねなのだ。久連松信一施設長(67歳)は、語っている。

「ウチの製品の最大の特色は、下地付けの丁寧さでしょう。漆器の良し悪しは、下地付けに一番ポイントがあると言われています。下地付けの手を抜くと、漆が次第に剥がれてきてしまうからです。私たちは、生地を手作業で研磨して、下地塗料を塗り、乾燥したら研磨してまた別の塗料を塗る...。そんな作業を5〜7回繰り返して、完璧な下地を付けるように心がけています。」

完成した漆器を手にすると、ずっしりした重量感に驚かされる。本漆が持つ柔らかな黒や朱色の風合いとともに、日本の伝統工芸品としての凛とした風格を感じることだろう。

そしてもう一つ、「宮崎漆器」の最大の特色たる堆錦による装飾だ。漆に顔料を混合し、ゴム状に延ばした漆を細かく切り抜いて器に貼り、図案を作り上げていく作業はまさに圧巻の一言。描くのでもなく、もちろん転写紙を貼るわけでもない。職人技の集大成ともいうべき素晴らしい技術である。

高級贈答品として、全国の百貨店でも人気の商品たち

当然、商品としては高級品扱いである。人気の「脇取盆」が、10,500円。「銘々皿5枚セット」が、6,300円以上。「吸物椀5客組」が、47,250円といった価格体系だ。安価な漆器に慣れた人にとっては手を伸ばしにくい商品であるのは事実だが、木製生地に本漆を塗った本格漆器の良さを理解する人なら誰でも納得の価格だろう。高級贈答品として、宮崎県内はもちろん全国の百貨店、さらには官公庁の記念品として着実に売上を伸ばしてきた。ただし最近では、ピーク時の10分の1程度まで売上は落ち込んでいるのが実状らしい。

「バブルの時代は価格が高くても品質が良ければ飛ぶように売れましたが、さすがに最近ではそうはいきません。障害者自立支援法の新体系に移行するにあたり、法人としては事業転換の可能性を検討したことがあるくらいです。しかし、今さらゼロから他の事業を始めるのも非現実的。これまで長い間培ってきた伝統技術をもう一度突き詰めるべきだという結論に至りました。宮崎県の伝統工芸品に指定され、宮崎県の伝統工芸士に認定されている技術者もいるわけですから、施設の都合だけで漆器事業をやめるわけにもいきませんしね」

と、久連松施設長。障害者就労系施設が制作する工芸品の中でも品質では飛び抜けた存在だけに、なんとか販売活動を頑張ってもらいたいものだ。そのために一番求められているのは、日本セルプセンターを代表とする販売支援組織とのタイアップや積極的なPR活動だろう。

もっと多くの人たちに「宮崎漆器」の素晴らしさを訴えていけば、必ず売上は向上していくのではないか。これだけ優れた製品を、地方だけの名品にしておくのはもったいない。セルプを代表する製品販売を、関係者全員の力でバックアップしていきたいものである。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。