社会福祉法人一心福祉会(沖縄県大宜味村)

高級フルーツ沖縄マンゴーの生産販売で高工賃を実現する「えすの里」

一心福祉会の概要

一心福祉会は、障害者支援施設「一心療護園」、障害者支援施設えすの里(生活介護事業)、就労センター「えすの里」(就労継続B型事業)、ケアホーム「えすの里」、特別養護老人ホーム「やんばるの家」、デイサービスセンター「やんばる」、介護支援センター「やんばる」等を運営する社会福祉法人である。

施設が建っているのは沖縄県北部の大宜味村。塩屋湾を見渡す山の上の約60,000坪の広大な土地の一角である。もともとここは琉球政府時代に国立国民年金保養センター建設用地として村有地を大宜味村が整地し、琉球政府社会保険庁が買い上げた土地であったが、復帰後に国有財産となり保養センター構想は頓挫して荒れ地となっていた。

その土地を安価に払い下げてもらい、人口わずか3,300人あまりの過疎の村を「福祉で村おこし」することをめざして1982年に建設されたのが「一心療護園」だった。

一心福祉会の福祉村構想はその後、障害者就労支援施設、老人ホーム、ケアホームへと次々に拡大。やんばるの豊かな山々と美しい海に囲まれて、総合的な福祉サービス事業へと成長を遂げている。

「えすの里」の大宜味マンゴー

沖縄県大宜味地方の名産といえば、芭蕉布とシークヮーサーとマンゴーだろう。とくに最近ではマンゴーブームの流れに乗って、マンゴー栽培を始める農家が増えてきている。「えすの里」では1993年の施設スタート当初から、すでにマンゴー栽培を主力事業のひとつとして取り組んできた。その理由について、平良長利施設長(65歳)は次のように語っている。

「単価が高く、ユーザーに直接売ることができるのが一番大きな理由です。他の作物だとJA等に納めないと販売するのは難しく、私たちのような小規模農園ではほとんど利益がでません。その点、マンゴーというのは特別な存在。高級感があり、ワンランク上の果実を求めてつねに美味しいマンゴーを探しているマニアもいる。美味しいマンゴーさえ作れれば、必ず売れると思ったのです」

そうした読みは当たった。施設を誘致した当時の村長がマンゴー農家だったこともあり、専門家から丁寧な栽培指導を受けた結果、通常は植え付けから出荷まで何年もかかるマンゴーを、わずか1年半で実をつけることに成功したのだ。そしてじっくりと母枝の剪定管理をおこなった後、3年目から本格的に「えすの里・大宜味マンゴー」として一般販売をスタートさせている。沖縄の障害者施設としては初めてのマンゴー栽培ということもあり、多くのメディアに取りあげられて知名度は一気に上がった。

「市販されているマンゴーというのは、ほとんどが流通の過程で熟した果実なのです。私たちのマンゴーは、農園で本当に完熟したものだけを収穫し、その日のうちにクール宅配便で出荷するようにしています。味についてはどこにも負けません。味が濃くて、甘さと酸味のバランスが絶妙。とろけるような食感は、どなたでも喜んでいただけるのではないでしょうか」

発売前からすでに完売? 天候が生産高を大幅に左右する

マンゴー栽培というのは、手のかかる作業である。収穫が終わった8月から翌年の7月にかけて、休みなく次年度の作業がスタートしていく。施肥やかん水(散水)→果痕枝除去→剪定作業→母枝誘因→園内温度調整→つり棚の確認→つぼみの確認→間引き剪定→保湿開始→敷草マルチング→花穂つり上げ→受粉対策→荒摘果、日焼け対策、袋掛け、等々の作業である。ハウス内の温度と水の管理を1年間徹底しておこない、雑草取りや枝・芽の剪定作業等を繰り返して、やっと収穫へとたどり着く。しかしそれでも天候に左右されやすい繊細なフルーツなのだ。

「台風の影響が一番怖いですね。暴風で枝が痛めつけられると、その年は花が開花しないので実をつけてくれませんから。つけたとしても、サイズがとても小さくなってしまう場合もあります。じつは今年の収穫量は、過去最低の成績。多分、昨年の半分にも満たない500kgくらいしか出荷できないでしょう。一番多いときで2,600kgくらい出荷したこともありましたから、ちょっと寂しい数字です。昨年の台風対策の失敗が、すべてでした」

と語るのは、7年前からマンゴー栽培を一手に引き受けている照屋篤指導員だ。担当以来初めてという大幅減産に、さすがにショックの色を隠せない。「えすの里」のマンゴーは2キロ4,300円で販売しているのだが(4〜5玉入り)、今年の収穫量では大口の固定客以外はほとんどお断りせざるを得ない状況なのだという。せっかく昨年度よりインターネットによる通信販売もスタートさせたのに、発売前から「完売しました」と表記されているのはそのためだ。

「せっかく楽しみにしてくれているお客さんにマンゴーをお送りできないのが、本当に申し訳ないです。この教訓を活かして、来年からはもっとしっかりハウスの管理をしたいと思います」

わずか一週間で、280万を売り上げる門松製造

ところで「えすの里」には、わずか一週間で280万円を売り上げるという季節限定の隠れたヒット商品がある。それは、お正月の飾り付けには欠かせない「門松」である。沖縄では正月に門松を飾る風習はなかったらしいのだが、パチンコチェーンやホテルのロビーに飾る特注サイズの受注に応えていくうちに、次第に販売量が増えていった。

1組3,000円(個人用65cm特小)〜 24,000円(業務用180cm特注)という 商品単価は手作りの門松としては非常にリーズナブルであり、顧客からも心配されるほどである。しかし竹以外は付近の山から無料で手に入る自然の材料ばかりなので、この価格でも十分利益は出るらしい。今では大小サイズ合わせて300組を売り上げる事業規模にまで成長した。

「年末は職員も利用者も総出で、門松制作に取りかかります。この時は、大量の材料が運び込まれて、施設中が門松に占領された状態です(笑)。マンゴー栽培が天候に左右されやすいのに較べて、こちらは毎年安定して売上を稼げるのが有り難いですね」

と、平良施設長。好調な門松販売のおかげで、天候によって収穫量(売上高)が大幅に変わってしまうマンゴー事業のリスクを補ってきた。「えすの里」の現在の平均工賃は約26,000円であり、沖縄県平均の13,400円を大幅に超えている。過疎の村の施設の工賃としては、立派な数字だろう。マンゴーや門松など、単価も利益率も高い製品の販売を主力にして事業を組み立ててきた結果だと言える。

「大宜味マンゴー」を、もっと多くの人に届けたい

今後の課題は、主力商品であるマンゴー栽培を大幅に拡大することだ。たしかに天候に左右されやすい作物ではあるが、畑全体を拡大すれば最低出荷量を向上させることができる。平良施設長は、せめてマンゴーを毎年2,000kgくらいは平均して出荷できるようにしたいと考えている。

「来年から施設の敷地が大幅に増えるので、ハウスを倍増する計画を進めています。これだけ増やせば、万が一、天候の影響で今年のような事態に陥っても、最悪の事態は防げますからね。ピーク時には2,600kg売ったこともあるわけですから、販売先はまだまだ増やせます。毎年楽しみに私たちのマンゴーを待ってくれている常連のお客様に、お断りすることだけは二度としたくないですね。もし余るほど収穫できたなら、マンゴーの加工品製造にもチャレンジしていきたいです」

マンゴーというのは、生食だけでなく加工品にしてもその美味しさがほとんど損なわれないという特殊なフルーツである。味の濃い大宜味マンゴーを使って専門家が開発すれば、きっと素晴らしいスイーツが完成する気がする。取材時には少し寂しい収穫風景でしかなかった「えすの里」のマンゴー畑が、採りきれないほどの完熟果実で埋め尽くされる風景を楽しみに待ちたいものだ。その時にはまた、新しいマンゴーの魅力を沖縄から発信してくれるに違いない。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。