社会福祉法人矢吹厚生事業所(福島県矢吹町)

新しい時代に適合した改革をスタートさせた「矢吹授産場」「わーくる矢吹」

矢吹厚生事業所の概要

矢吹厚生事業所は、矢吹授産場(生活保護授産施設)、わーくる矢吹(就労継続支援B型事業)、相談支援センターやぶき等の障がい者支援事業を運営する社会福祉法人である。

法人の原点となるのは、昭和25年に町の有志によって設立された民生事業助成会だ。近隣に矢吹陸軍飛行場があった影響から、戦争によって母子家庭となった人たちの自立更生を図る目的で、竹材加工の授産事業が始まったのである。その後、矢吹町民生助成会、矢吹町社会福祉協議会と運営母体が変更していき、昭和28年には生活保護法による授産施設となった。(矢吹厚生事業所として独立したのは、昭和54年)

こうした事業所誕生の経緯もあり、主体となるのは生活保護授産施設である。しかし近年は、ハローワーク等による生活保護受給者への自立促進事業が活発化しており、新たに施設に措置される利用者がきわめて少なくなっている。一方で、高齢障がい者や就労に結びつかない障がい者の数は増えている。そのため矢吹厚生事業所では、事業の中心をB型事業へとシフトしつつある。

法人のモットーは、「今支援を必要としている人へ、今必要な支援を」である。平成28年より体制が一新されたのを機に、新たに弁当事業などもスタート。時代に適合した施設のあり方を探っている。

  • 矢吹厚生事業所 ファッサード
  • ひとは作業をすることで元気になる

付加価値ある仕事へのシフト

矢吹授産場では、昭和42年から竹細工に代わって縫製作業に取り組んできた。病院診察衣や予防衣、調理衣、園児スモック、エプロンなどの縫製である。そのため利用者はベテランのミシン技術者ばかりであり、緻密で丁寧な作業には定評があった。しかしすべて企業からの下請け作業のため、一件あたりの請負価格は低価格。エプロンやユニフォームを縫い上げても、一着あたり350~500円程度にしかならない時代が続いていた。

平成28年7月より施設長に就任した小林香さん(44歳)がまず手をつけたのは、付加価値ある仕事へのシフトであった。幸いなことに、最近では国内の縫製事業者が少なくなっている。大手企業の多くは海外に縫製工場を移転させたため、国内で安心して縫製作業をまかせられる人材が不足しているのだ。そこで取引先に対して、自分たちの技術と実績を少しずつアピール。小ロット高品質の仕事をもらえるように、受注内容を変化させていった。

「たとえば貼り付けポケット(アウトポケット)ではなくて、生地に穴を開けて縫い付けるセットイン・ポケットのユニフォームとか。素材が綿ではなく、ポリエステルが入った高級生地の衣類とか。技術的には少し高度になりますが、それだけで一着の単価が1,500円くらいに跳ね上がります。高級レストランのシェフが着用するコックコートになると、2,500円以上にもなります。単価が高い仕事であれば、数をこなさなくていいので余裕が生まれます。もともと作業の丁寧さには自信がありますから、取引先からもとても評価は高いですね。もっと積極的に営業活動を行っていき、自分たちの力が発揮できる仕事を確保していきたいと思います」

  • 縫製作業に勤しむ利用者さん達
  • ミシン作業は熟練利用者さんが大忙し。若い利用者さんはミシンが苦手。

利用者ニーズに合わせ、お弁当事業もスタート

平成28年からB型事業所わーくる矢吹において、弁当事業というまったく新しい取り組みをスタートさせた。この狙いについて小林さんは次のように語る。

「新しく入所してくる若い利用者の方たちは、ミシンを使った縫製作業にはまったく興味をもちません。食品事業に関わりたいというニーズがとても高いのです。そこで『お弁当和来』というブランドで、宅配日替わり弁当事業を始めることになりました。福祉施設であることをなるべく出さないで、一般のお弁当屋さんのようなPR活動を行うようにしています」

お弁当のメニュー構成、衛生管理、製造工程管理などはすべて管理栄養士に依頼した。大手食品メーカーなどで商品開発・臨床栄養などに関わった実績のある方である。彼女の指示のもとで厨房の衛生管理、食材検査、水質検査などが徹底されているため、自信を持って新しい食品事業を立ち上げることができた。「届けたいのは、食べる幸せ」がキャッチフレーズとなっており、ガッツリでありながらヘルシー、塩分控えめなメニュー構成が最大のウリだ。食材はもちろん、矢吹町産地直送品をメインに使用する。

メインとなる商品は、420円の日替わり弁当である。市役所、社会福祉協議会、福祉施設、一般企業などと月契約を結んでおり、毎日バラエティに富む内容で、カロリー計算もしっかりされた美味しいお弁当だと、とても好評だ。近隣の高等学校には、昼食時に販売にも出かけている。

  • 利用者ニーズに合わせ、お弁当事業もスタート
  • お弁当・お惣菜調理スタッフ集合写真

「社協さんなどを通じて、研修会のお弁当などで100個単位の発注もいただけるようになりました。今月は、一日の製造量が300個を超える日もあるのですよ。まだまだスタートしたばかりの弁当事業ですが、近いうちに専門の製造工場を整備して、本格的な事業展開が図れるようにしていくつもりです」と、小林さんは期待を膨らませる。

地域に根ざした活動を始めたい

新しく施設長に就任してから、約1年半。法人初の現場出身施設長として、小林さんは次々に改革を進めてきた。これからさらに力を入れたいのが、地域に根ざした活動の強化だという。

「この地で60年以上活動してきているのに、私たちの施設の存在は地域ではほとんど知られていないのが現状です。施設に足を踏み入れたことのある人はほとんどいませんし、どんな人たちが働いているのかも知られていないのです。社会福祉法人に現在求められている課題を考えると、このままではダメでしょう。もっと地域の人たちとの交流を深めていきたいですね」と、小林さん。

そのため、積極的に取引先に出かけてトップセールスを繰り広げ、時には利用者たちを連れ出してその存在をアピールするようにしている。B型事業の事業所名を「わーくる矢吹(ワーク&サークルの意)」、弁当のブランド名を「お弁当和来(和が来る:和が輪をつないでいくの意)」としたのも、授産場という旧態依然としたイメージを少しでも脱却させたいと願っているからだ。

「措置される利用者がどんどん少なくなっているとはいえ、法人の原点は生活保護受給者のための就労支援施設。私たちはその機能もしっかり残しつつ、新しい時代に対応した施設のあり方を探っていきたいと思います」

生活保護授産施設だからこそ、障害者自立支援法が制定される前から、対象者を選ばずにあらゆる人たち(生活困窮者、精神障がい者、知的障がい者、身体障がい者)に対する就労支援をおこなってきた実績とプライドもある。「必要とする人に、必要な支援」をモットーとする矢吹授産場&わーくる矢吹の真価は、これからの活動にかかっている。

  • 小林香施設長、職員一同写真
  • 地域貢献活動の一環として仕出しサービス

(文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。