社会福祉法人福音会(福島県須賀川市)

震災後の低迷から、事業を着実に盛り返しつつある「ワークセンター麦」

福音会の概要

福音会は、宇津峰十次の里(施設入所支援事業・短期入所事業・生活介護事業・日中一時支援事業・指定相談支援事業アーモンド)、コーポラスいちの(共同生活援助事業)、シオンの園(特別養護老人ホーム)、ワークセンター麦(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業・日中一時支援事業)、カノン(生活介護事業・就労継続支援B型事業)等を運営する社会福祉法人である。

法人事業の中でも3番目に歴史があるのが、ワークセンター麦だ。下請け作業・レストラン&売店運営・施設外就労の3つの柱を掲げ、より高い工賃をめざした事業展開を続けてきた。東日本大震災では古民家を改築したうどん店が全壊するという被害にもあったが、助成団体や全国のセルプの仲間たちからの支援によって、必死に立ち直ってきた。現在の平均工賃は約34,500円であり、震災前の数値までほぼ回復したという。

施設がある福島県須賀川市は、特撮の神様と称される故円谷英二の出身地。そのため市をあげてウルトラマンを使った町おこしが積極的に行われている。2013年からはウルトラマンの故郷「M78星雲ひかりの国」と姉妹都市にもなった。街のメインストリートにはウルトラマンや怪獣のモニュメントがずらりと並び、市役所にもウルトラの父やウルトラマンのモニュメントが立っているほどだ。

  • 須賀川市は、特撮の神様「円谷英二」の出身地
  • 須賀川市役所に設置されている、ウルトラマンの父などのモニュメント

ちりも積もれば山となる。Eリング加工の下請け作業

それでは、ワークセンター麦で行われている作業内容を見ていこう。一つ目の柱が、企業からの下請けである。中心となるのは、自動車部品のEリング(E型止め輪)作業。発注先の金属部品メーカーが鋳造した大量のリングを、台の上にきれいに整列して収めるという仕事を請け負っている。 「この作業だけで、下請け加工の売上の約半分に当たる約800万円もの年間売上があります。単価そのものはとても低いのですが、ちりも積もれば山となる、というのは本当ですね。施設開設当初から、ずっといただいている仕事です」と、園長の伊東久美子さん(58歳)

作業現場を拝見させてもらうと、利用者たちが大量のEリングを猛烈なスピードで整理していた。山のように積まれたEリングを1つずつ同じ方向に並べていくという作業は単純だが、この仕事に見事な能力を発揮する利用者がいる。早い人だと、一日で何万個もの数をこなすことができる。あっという間に、Eリングがきれいに揃っていくのである。

この他、段ボールの仕切り組立や、ネジの袋詰め、ビニール袋の折りたたみ、ポリプロピレンのカット、キッチン三角コーナー用ネットの加工及び袋詰め、ボールポンの組立等々、さまざまな下請け作業を行っている。取引企業は1社だけでなく複数あるため、よほどのことがない限り仕事が途切れる心配はないという。

  • 自動車部品のEリング(E型止め輪)作業
  • ビニール袋の折りたたみ、ポリプロピレンのカットなど、様々な下請け作業を行っている

うどん店から、市役所内のレストランへ

2つ目の柱が、飲食事業である。下請け作業は安定しているとはいうものの、やはり取引先の状況に左右されてしまうのも事実。年間売上が、多いときには約300万円の減収になってしまうこともある。その穴を埋めるためと、利用者の仕事の選択を広げるために、2005年から始めたのが飲食事業(本格的な手打ちさぬきうどん店)だった。しかし前出のように、東日本大震災によって店舗が壊滅。その後、丸紅基金からうどんの移動販売車を寄付してもらい、無店舗販売を続けていたのだが、飲食事業はさらに2017年5月から新たなステップを踏み出した。

「震災後から6年が経過して、やっと須賀川市役所が新築されることになりました。新しい市役所の1階のレストランと売店を、私たちが運営できるようになったのです。これはSBN(須賀川B型事業所ネットワーク)や手をつなぐ育成会の応援のおかげですね」と、伊東さん。副園長の橋本芳武さん(58歳)も、素晴らしい立地条件の店を獲得できたと喜びを語る。

「新しい市役所は、ウルトラマンで町おこしを進めている須賀川市の象徴的建物。市民はもちろんのこと、全国からたくさんの人たちも視察に訪れます。ウルトラマンのモニュメントが立っている市役所なんて、全国的にも珍しいですからね(笑)。利用者や家族にとっても、ここで働けるのは本当に嬉しいと思います。毎日、わくわくしながら働いているようです」

12時になると、市役所の職員たちが一斉に職場から降りてきて、レストランや売店に殺到するのはお馴染みの風景となっている。売店で売っているお弁当も、あっという間に売り切れてしまう。サービスメニューの天丼弁当(350円)など、お客さんの間ではいつの間にか「幻の弁当」と呼ばれているそうだ。

レストランでは多彩なメニューが用意できるため、利用者たちの能力を今まで以上に引き出せるようになった。調理師免許をもっている利用者が毎日仕込むキーマカレーは、この店の看板料理の1つである。日替わり定食や、季節ごとのイベント特別メニューを楽しみにしている固定客も多いという。

  • 須賀川市役所1階、売店「こむぎ」での弁当販売
  • レストランでは、調理師免許をもつ利用者さんが毎日仕込むキーマカレーが看板料理です

施設外就労。そして一般就労へのサポート

三つ目の柱が、施設外就労である。施設外就労の主な作業は、発泡スチロール野菜ケースの印刷梱包と、お米の放射線線量検査。後者は、東日本大震災後にJA全農福島が福島米の安全性を保障するために始めた、福島県特有の仕事である。ワークセンター麦では、川東地区の線量検査をすべて任されている。施設外就労は時給が非常に高い(900円〜1,000円)ため、過酷な肉体労働であるにもかかわらず、参加希望者が殺到。日ごとにシフトを組んで、施設内の仕事と振り分けをしているのだという。

「うどん店が全壊するなど、震災によって失ったものもありますが、このように新しい仕事や人との出会いもたくさん生まれました。私たちはそんなご縁をこれからも大切にし、地域の企業とのつながりを深めていきたいと思います」と、伊東さん。

ワークセンター麦が、もう一つ力を入れている取り組みがある。それは、「就労移行支援」である。B型事業所としてより高い工賃をめざすのは当然だが、理想はやはり一般就労につなげること。そのために市内のさまざまな企業と密接な関係を築き、チャンスがあるごとに利用者を就労へと結びつけていく。そのためにも就労移行事業を重要視しているのだという。市内を車で走っていると「ここにもあそこにも、ウチの利用者たちが就職しています」と橋本さんが嬉しそうに語るのが、とても印象的だった。

就職後の定着支援にも力を入れている。小麦会、ひよこの教室、はやぶさ会、ひよこ会といった卒業生たちの同窓会、勉強会をいくつも結成。月に1回程度の集まりに職員も参加することで、彼らの職場での悩みをサポートしているのだ。この結果、就労移行支援事業から巣立った利用者たちの職場定着率を大幅に改善させることができた(現在、84%)

「施設利用者だけでなく、卒業生ともつながっているので、私たちの組織はどんどん大所帯になっていきます」と橋本さん。つながり続けることが、利用者たちの働く・暮らすをサポートすることになる。そう信じて、ワークセンター麦ではこれからもさまざまな活動を進めていく予定だ。

  • ワークセンター麦は、「就労移行支援」事業にも力をいれている
    (写真提供:社会福祉法人福音会)
  • ワークセンター麦は、施設外就労で利用者たちの職場定着率を大幅に改善させた
    (写真提供:社会福祉法人福音会)

(文・写真/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。