社会福祉法人悠和会(岩手県花巻市)

100年先を見据えながら、地域づくりをめざす「ワークステージ銀河の里」

悠和会の概要

悠和会は、「ワークステージ銀河の里」(就労継続支援B型事業)、「みつさんち」(共同生活事業:グルーブホーム)等の障がい者福祉サービスを運営する社会福祉法人である。この他、認知症対応型デイサービス「銀河の里」、認知症対応型グルーブホーム「銀河の里」、地域密着型特別養護老人ホーム「銀河の里」等の高齢者福祉サービスも展開する。

事業を始めたきっかけは、1992年に遡る。首都圏で福祉施設に勤務していた宮澤健さん(現理事長)が、「自然の営みの中で、暮らしと直結した施設をつくりたい」との思いで、花巻の地に移住を決意したのが始まりである。当初は一人で農業を行いながら、障がい者や高齢者、ひきこもり、不登校など生きにくさを抱えた人たちやその家族と交流をもち、一緒に将来構想を練っていった。2000年6月に法人設立が認可されると、翌年1月から在宅介護支援センター、翌年3月には認知症対応型デイサービス、認知症高齢者共同生活事業(グループホーム)をオープン。その後、障がい者分野にも事業を広げてきた。

B型事業所「ワークステージ銀河の里」の主な作業科目は、米・野菜・リンゴなどの農作物栽培と農産加工(餃子、シュウマイ)。600坪の水耕ハウス内での各種野菜栽培、7haの田んぼでの米づくり、地域農園のリンゴ栽培・管理を受託するほか、その加工(ジュース、シードルの製造)や販売も行っている。2018年からは施設の敷地内に農園を拡張し、アールペイザンワイナリーというワイナリーも建設。シードル、ワインという二つの大きな看板を前面に打ち出し、事業拡大を狙っている。

  • ワークステージ銀河の里 外観
  • リンゴを原材料とするシードル製造(スパークリングワイン)

リンゴから生まれるシードルづくり

農業を主軸にした事業展開を進めてきた「ワークステージ銀河の里」が、リンゴを原材料とするシードル製造(スパークリングワイン)にチャレンジするようになったのは、2017年のことである。その経緯について、宮澤理事長は次のように語る。

「全国的に農家の方にとって、後継者不足は深刻なテーマです。施設がある花巻市も例外ではありません。そんな中、あるリンゴ農家の方が高齢化によってリタイアせざるを得ないので、農園を引き継いでもらえないかという相談があったのです」

宮澤理事長が掲げている法人理念の大きな柱が、「地域課題の解決は、社会福祉法人が取り組むべき重要なテーマ」ということである。依頼には積極的に応えるべきだと考え、そこから本格的にリンゴ栽培が始まった。しかしいざ栽培に取り組んでみると、傷が付いたり、サイズが規格外だったり、生食では売れないリンゴが想像以上に多いことに悩まされた。「せっかく育てた果実なのだから、できる限り有効活用しよう」と宮澤理事長たちは試行錯誤した結果、シードルづくりにたどり着いたのだという。

「落ちたリンゴを活用した製品で有名なのは、リンゴジュースでしょう。でも私たちは、他ではあまり見られない加工品をつくりたかったのです。幸い、岩手県工業技術センターが開発に協力してくださり、ノンアルコールシードルの製造に成功することができました。甘味料、香料、着色料、酸化防止剤を使用しない無添加飲料です」と、宮澤理事長。

こうして生まれたノンアルコールシードルは、大好評となった。平成28年度いわて特産品コンクールで「いわての物産展等実行委員会会長賞」を受賞したほか、雑誌BRUTUS2017年2月1日号の特集「日本一の『お取り寄せ』グランプリ」では、ノンアルコールスパークリング部門準グランプリを受賞するなどの栄冠を次々と得たのだ。

これだけ高品質のシードルをつくれるならば、途中で発酵を止めないアルコール度数7.5%のシードル製造に挑みたくなるのは当然だろう。ワイン、シードルを市の名産にしようと花巻市が、国の「クラフトワイン・シードル特区」の認定を受けたことをきっかけとして、市内第1号の特区ワイナリーを起ち上げた。果実酒製造免許も取得し、「ワークステージ銀河の里」は本格的にアルコール事業へと足を踏み入れることになった。

  • ワインづくりに勤しむ利用者さんたち
  • 平成28年度いわて特産品コンクール「いわての物産展等実行委員会会長賞」受賞

「農民が醸す芸術」としてのワインづくり

ワイナリーの名称は、アールペイザンワイナリーである。フランス語で「アール(art)」は芸術、「ペイザン(paysan)」は農民を意味する。畑を耕し、苗を植え、自然と向き合いながらワインを醸す。花巻の豊かな気候風土を活かし、「農民が醸す芸術」と胸を張って言えるようなワインを創り出したい...という願いが、この名前には込められている。醸造責任者の高橋和也さんは、次のように語っている。

「当ワイナリーの特色は、原材料がすべて自家農園で栽培された果実だという点だと思います。2018年からは醸造用ブドウ畑も造成し、シードルに加えてワイン醸造にも取り組むことになりました。日本財団の『はたらく障害者サポートプロジェクト』にも採択され、醸造所とショップラウンジがセットになった木造二階建てのオシャレなワイナリーも完成しています」

ワイナリーのショップラウンジに隣接されたウッドデッキからは、広大な施設内のブドウ畑やリンゴ畑を一望することができる。天気のいい日に訪れれば、その風景を眺めるだけで心が洗われることだろう。お客さんに対してそんな体験を提供することも、事業の大きな目的なのだと宮澤理事長は訴える。

「花巻ではワインツーリズムと銘打って、複数のワイナリーを回るツアーを始めています。私たちのワイナリーは、まさにその企画にピッタリ。ぜひこの地を訪れて、自然に癒されながら、美味しいワインを味わってほしいと思っています。利用者たちの働く姿と接するだけでも、不思議と癒されるはずですよ(笑)」

  • 花巻の豊かな気候風土を活かした醸造に勤しむ利用者さん
  • 2018年からは醸造用ブドウ畑も造成しワイン醸造にも取り組む

100年先を見据えて、悠和会がめざすもの

アールペイザンワイナリーでは、2020年2月にシードル、ワインを初出荷した。ブランドマークも作成し、試飲会を実施しながら大々的に営業しようと計画していた最中に、新型コロナウィルスの感染拡大が始まってしまう。比較的感染者の少なかった岩手県においても、影響は避けられなかった。5月からは全国を対象とする緊急事態宣言も発令され、その後も感染拡大が収まる気配は見られない。飲食店の営業時間短縮や、営業やアルコール類提供の自粛要請など、日本中のアルコール事業そのものが危機的状況に陥っている。

当初予定していた事業計画では、初年度(2020年)に5,300本のワインとシードルを出荷、960万円の売上によって月額平均工賃30,000円(現在は、約23,000円)を実現する予定だった。3年後には、売上3,400万円、月額平均工賃50,000円をめざしていたアールペイザンワイナリーにとって、大きく出鼻をくじかれた感は否めない。しかし高橋さんは、それほど大きな問題だと捉えていないようだ。

「私たちがめざしているのは、50年先、100年先を見据えた活動です。工賃向上をめざすのは当然ですが、短絡的な数値にとらわれるあまり本来の目的を見失いたくないですね。それにお酒というのは本来、楽しくなるために飲むものでしょう? 今はこんな時期だから、市場が停滞気味なのは仕方ありません。ワイナリーを構築するまでの期間がとても激務だったから、今は時期が来るまでゆっくり時を待つ...そんな感覚でどっしりと構えています。倉庫に眠らせたワインは、熟成によってむしろ商品価値は上がっていくはずです」

宮澤理事長も、今後の展開に前向きである。

「ワイナリーには、夢があふれていると思います。この地にたくさんの人たちが集まってきて、にぎわっていく。利用者のチカラで花巻を、ワイン造りを希望する人たちが全国から集まって来るような町にできたら最高にです。利用者たちが集まってくる若者たちに栽培・醸造技術を教え、育てていく。そしてクラフトワイナリーがたくさん点在するような魅力ある地域になっていく、それこそが、私たちの夢見るワイナリー構想なのです」

つまり障がいのある人たちが地域に支えられるだけでなく、高齢化、後継者不足等の地域課題の主たる担い手となって活躍できるような「仕事・機会の創造」──それが、悠和会設立時から宮澤理事長が暖めてきた「銀河の里構想」である。シードルやワインの醸造は、そのためのツールの一つに過ぎない。そんな考えを土台にして、アールペイザンワイナリーはこれからも一歩ずつ着実に事業を拡大していくことだろう。コロナ禍が過ぎた後の展開を、ぜひ期待したいと思う。

  • 利用さんや若者たちに栽培・醸造技術を伝えていく
  • 私たちの夢見るワイナリー構想

〔コロナ禍のため、今回はZoomによるリモート取材となりました〕
(写真提供:社会福祉法人悠和会、文:戸原一男/Kプランニング

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。