社会福祉法人旭川春光会(北海道旭川市)

「与えられる作業から、選べる作業」 への転換をめざす

旭川春光会の概要

旭川春光会は、セルプ ノイエ(就労継続支援B型事業)、セルプ フロイデ(就労継続支援B型事業)、セルプ 豊里(就労継続支援B型事業)等の障がい者就労支援事業の他、全5棟のグループホームを運営する社会福祉法人である。法人の歴史は非常に古く、1949年に設立された生活保護法に基づく北海道立旭川授産場が始まりだ。その後、財団法人旭川春光授産場(1951年)、社会福祉法人旭川春光会(1952年)と法人形態が変わったものの、戦後の引き揚げ者、母子家庭、生活保護受給者等を主な支援対象とする授産施設という位置づけは引き継いできた。

現在のように障がい者の就労支援に特化するようになったのは、2001年に現在地に移築してからのことである。この年に身体障害者通所授産施設 セルプ ノイエ、知的障害者通所授産施設 セルプ フロイデが開設された。2009年にセルプ豊里(以下「豊里」)が就労継続支援B型事業の運用を始めてからは、新体系の下でセルプ ノイエ(以下「ノイエ」)、セルプ フロイデ(以下「フロイデ」)ともに就労継続支援B型事業所として新たなスタートを切っている。

どの事業所も、木工作業を中心とする。ノイエが家具用材・住宅用材・学習用工作材・施設製品用材などの「木材材料加工」、フロイデがキッチン用扉、店舗用パーツ、家具用パーツなどの「パーツ加工」、豊里が木工パズル、バードテーブル、記念品グッズ等の「木工製品加工」と、それぞれ作業分野を分け、役割分担しながら連携を図っているのも大きな特色と言える。

  • セルプ ノイエ外観
  • 旭川春光会(きのね工房)製品

木工作業に取り組む工夫

旭川春光会の3事業所がある旭川市では、昔から近隣町村の木材集約基地として木材加工や高級家具の製造業が栄えてきた。そのため前身の社会事業授産施設時代から木工作業を主たる作業種目としている。日下貴博統括施設長(法人常務理事)は、次のように語る。

「木材には、気持ちを落ち着かせてくれる不思議なチカラがあります。そのため木が好きな人は、事業所で取り組む色々な作業に取り組みたいと、意欲的に作業してくれるのです。とくにノイエやフロイデで作業しているの方の中には、この道30年以上の大ベテランの方がいらっしゃいます。製材加工技術は、外部の企業からも高く評価されています」

もっとも作業の現場は、一般の木材工場とまったく変わらないのも事実である。一般木材会社から仕入れした製材が積まれ、刃物が回転する音も鳴り響く。特殊な機械を使いこなす職人たちが忙しそうに動き回っていて、とても障がい者の就労支援場所とは思えない雰囲気だ。特別支援学校の学生たちが職場見学にやって来ると、本格的な工場のような様子に怖じ気づいてしまうケースが多いのだという。

「セルプ 豊里を立ち上げたのは、そんな若い人たちにも木工作業の楽しさを知ってほしいと考えたためです。パソコンとつないで印刷できるフルカラーダイレクトプリンター、A4判サイズ程度の木の板に好きな図柄の描画や切り込みが出来るミニNCルーターなどを導入し、小さな木工グッズづくりを行っています。ボタンを押すだけで機械が動くので、利用者さんたちもゲームをする感覚で作業に取り組めます」

  • 4面剥ぎ合わせ機
  • テノーナー(ノイエ)

ノイエやフロイデと違い、豊里で作られる木工製品は近隣の販売所で売られている。自分たちが作ったものがお客さんが買っていく姿を見られるので、仕事へのモチベーションも自然と上がっていく。まずはこういうところからスタートし、より高い技術や工賃を求めて本格的な木工作業にチャレンジしたい人が、別の事業所(あるいは一般就労)に向かっていけば良い。それが、3つの事業所をそれぞれ分けて運営する旭川春光会の基本的な考え方なのだという。

誰でも木工作業の現場で働ける工夫

古くから木工作業に取り組んできた法人らしく、作業現場には利用者の障がいや高齢化、重度化に対応した工夫も随所に見受けられる。

「当施設のモットーは、誰でも作業に取り組めるようにということです。とくに最近は利用者さんの高齢化や重度化が進んでいますから、安全作業の確保と作業の細分化は重点項目です。危険を覚えてもらい、安全第一で正確に作業ができるよう、それぞれの特性や障がいに合わせた作業環境の見直しを行ってきました」と、作業指導員の眞塩愛さん。

たとえば木材を移動する作業台である。コロコンローラーを利用した材料運搬台をオリジナルで作ったり、台車を付けた移動式作業台を用意し、どこでも空いたスペースで作業できるようにした。ノイエはもともと身体障がい者授産施設だったこともあり、重い木材を運ぶことが苦手な人が多かった。特殊な治具(補助具)は、彼らのために開発されてきたのである。

また、最近増えてきた知的障がいのある利用者への対応も考えられている。たとえば豊里で組み立てられるバードテーブルである。利用者でも簡単に組み立てられるような専用の治具を開発した。ここに木材パーツをセットすると、ビスを入れる位置も分かるようになっている。こうした治具づくりは利用者一人ひとりに合わせて考案されている。

作業の細分化、ネットワーク化も旭川春光会の大きな特色だろう。わかりやすく、木製パズルの作成を例に挙げてみよう。原板の加工はノイエ、パズルの絵描き(溝掘り)は豊里、糸ノコでパーツを切り抜くのはフロイデ、サンドペーパーを使った最終仕上げは他法人事業所と、4つの事業所がお互いの得意分野を持ち寄って、1つの製品を作り上げているのだ。これによって生産効率は格段に上がるため、仮に企業から記念品などの大量発注があった場合でも充分こなせる体制を作り上げている。さらに日本セルプセンターの木工部会としてまとまっている全国ネットワークを使えば、その加工能力は無限大だ。

  • バードテーブル 5タイプ(豊里)
  • 作業棟内(ノイエ)

仕入れ加工から賃加工作業への転換で収益率アップ

コロナ禍の影響で、世界的にウッドショックと呼ばれる深刻な木材価格の高騰が起こっている。虫害や山火事、コロナによる製材所の休止、アメリカの住宅建築需要の急増などの要因が重なり、建築用木材の供給が需要に追いつかなくなっているのだ。そのため国産材の価格も急激な上昇が続いており、深刻な事態だと日下統括施設長は危機感を募らせる。

「製材加工から製品づくりを行っている私たちのような事業所にとって、木材価格の急激な上昇は命取りになりかねません。そのため2021年12月頃から、これまでの『仕入れ加工作業』から『賃加工作業』という考え方にシフトすることにしました」

賃加工作業ならば、原材料が取引先から提供されるため、作業した分だけの収入となり、価格の変動に一喜一憂することはなくなる。全体売上の7割を占める大手2社ともに「賃加工取引」への転換を了承してくれたため、大半の作業が新しい方式へと移りつつあるのだという。このような交渉が成立した背景には、利用者たちがこれまで培ってきた職人としての確固たる技術があったことは間違いない。

もちろん、木工作業以外の可能性の模索も旭川春光会の重要なテーマである。ノイエでは、タオル袋入れなどの軽作業や食品製造販売事業(十数種の味が楽しめるポップコーン)、フロイデでは農園作業、昼食提供事業(職員と利用者の昼食づくり)、豊里では編み物などの手工芸、農福連携をめざした施設外就労なども始まった。

「私たちがめざしているのは、『与えられる作業から、選べる作業へ!』の転換です。長い間培ってきた木工作業の分野では、大きな家具から小さなグッズまで、色々な製品づくりの工程があります。そしてこれからは木工作業に限らず、あらゆる分野の仕事にチャレンジしていくべきでしょう。それぞれの利用者さんの特性や個性にあった仕事は何なのか。本人の希望により添って、実現のためにアイデアを絞り、みんなの人生が豊かになるためのサポートをこれからも続けていきたいですね」と、日下統括施設長は力強く語ってくれた。

  • お菓子の箱作り
  • 施設外就労 果樹園(豊里)

(写真提供:社会福祉法人春光会、文:戸原一男/Kプランニング

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。