社会福祉法人貴峯(神奈川県平塚市)

コロナ禍の中でも安定的な各種事業を続ける「貴峯荘ワークピア」

貴峯の概要

貴峯は、貴峯荘ワークピア(就労継続支援B型事業)、貴峯荘第2ワークピア(就労継続支援A型事業、就労継続支援B型事業、相談支援事業)の二つの障がい者就労支援事業所を運営する社会福祉法人である。

貴峯荘ワークピアと隣接する敷地内に貴峯荘(施設入所支援事業、生活介護事業、短期入所事業)、貴峯荘湘南の丘(施設入所支援事業、生活介護事業、短期入所事業)等の入所施設も併設し、さらに第一貴峯館・第二貴峯館等のグループホーム、貴峯荘地域支援センター(生活介護事業、相談支援事業)もある。

「利用者の働く場を確保するとともに、健康で安心のできる定住拠点を築く」ことを目的として、1958年から神奈川県厚生協会(身体障害者入所授産施設:当時)として平塚の地で誕生した歴史ある法人だ。2018年6月に法人設立60周年を迎えたことを期に法人名を「貴峯」と改め、新たな時代に対応した障がい者支援活動を進めている。

  • 貴峯荘ワークピア 外観
  • 貴峯荘第2ワークピア 外観

最新の衛生システムを導入した「貴峯荘第2ワークピア」

新しい活動を象徴する事業所が、2016年に開所した貴峯荘第2ワークピアだろう。法人設立時から続けているクリーニング事業に特化した事業所だが、ヨーロッパの厳しい衛生ガイドラインに沿って建物を設計した。貴峯荘第2ワークピアの夏井宏之施設長(54歳)は、その経緯を次のように説明する。

「もともと貴峯荘では、40年以上も昔から厚木市にある神奈川県総合リハビリテーションセンターのクリーニング業務を受託し、病院の洗濯室に職員と利用者を派遣していました。ところが2017年に病院が新しく建て変わり、業務を外部委託することになったのです。幸い、業務の大半は引き続き受託できたのですが、貴峯荘ワークピアとは距離が少し離れています。そこで病院の近くに、新たなクリーニング工場を建てることになったわけです」

そこで「どうせ新工場を作るなら、最先端の設備を導入するべき」という考えに基づき、「バリアランドリーシステム」を導入することになったのだという。

このシステムの基本的な考え方は、洗濯室を隔壁で「汚染域」「清潔域」に完全分離させることである。処理前の洗濯物と、処理後の洗濯物はパススルー(一方向)で流れるように設計されているため、二つの洗濯物が交わることは決してない。結果として、高度な感染予防・衛生管理が可能になっているのだ。

「衛生基準に厳しいヨーロッパ諸国のランドリー業界では、衛生ガイドラインRABCを厳守することは当然とされています。当施設が採用したバリアランドリーシステムはRABCに適合するため、今後は医療施設だけでなく、食品工場、ホテル、老人福祉施設にも目を向けた営業展開も可能になりました」と、夏井施設長は言う。

図らずも昨今は新型コロナウィルスの感染拡大によって、日本のランドリー業界でもヨーロッパ並みの厳しい衛生基準が求められていくだろう。貴峯荘第2ワークピアが思い切った設備投資によって築き上げたバリアランドリーシステムは、ますます重要視されていくに違いない。

  • 洗濯前の衣類は「汚染域」から洗濯機に投入する洗濯前の衣類は「汚染域」から洗濯機に投入する
  • 洗濯物は、壁で完全隔離された「清潔域」から取り出す洗濯物は、壁で完全隔離された「清潔域」から取り出す

コロナ禍の中でも奮闘する、貴峯荘ワークピアの各事業

これに対して、貴峯荘ワークピアで行われている作業は印刷、クリーニング、縫製、組立・軽作業等である。なかでも売上の約半額を占めるのが、印刷事業だ。とくに近年は、神奈川セルプセンターとの連携を強化することによって、障害者優先調達推進法を活用した官公庁からの受注拡大を進めてきた。各種パンフレット、公立学校の要覧、福祉計画などの冊子類などの案件に加えて、個人顧客を対象とする自費出版物など、多彩な仕事をこなしている。

「A3ノビ両面を出力できるオンデマンド印刷機を、2台保有しています。通常の4色印刷に加えて、ホワイトインクなどを加えた特殊印刷にも対応できるため、受注の幅が広がっています。数千部の印刷物でも、夜中に機械を回しておくことも可能です。どんなに急ぎの案件でも、納期に間に合わせることができるようになりました」と、授産部の鴇さん。

縫製部門の生産能力の充実ぶりも、素晴らしい。パラリンアートがプリントされた生地を使ったエコバッグ、エプロン、ハンカチ、ポーチなどが好評で、平塚市の各部署から各種記念品として数多く発注されてきた。もちろん昨今のコロナ禍にあって売上が激減したのも事実だが、穴埋めとして手がけた手づくりマスクの生産が急ピッチで続けられている。緊急事態宣言が発令されてから現在(2020年8月)までの4ヶ月あまりで、すでに約2,500枚のマスクを生産・販売したという。

貴峯荘ワークピアの縫製技術の高さは、日本を代表する平塚市内の障がい者アート工房「スタジオ・クーカ」のアートグッズ(ポーチ、ベンケース、トートバッグ)類の製作を委託されていることからも、容易に想像できるはずだ。これだけ細かい手作業が必要なグッズを生産可能な工場を国内で見つけるのは、とても難しいのではないか。

  • 印刷部門でんは、オンデマンド印刷機を2台保有
  • 貴峯荘ワークピアの縫製技術は優れている

就労場所の確保とともに、安心できる定住拠点を築いていきたい

最後に貴峯荘ワークピアの今後の課題について、貴峯荘の榊原友二施設長(61歳)は次のように語ってくれた。

「歴史ある法人ですから、利用者の皆さんの高齢化や障がいの重度化も進んでいます。若いころはクリーニングの現場でバリバリ働いていたような人でも、次々に職場変更を希望しているのです。そのため最近は、軽・組立作業班の人数が増えてきてしまいました。これからはそんな皆さんへの対応や仕事の確保が、施設としてますます求められていくでしょう」

そうはいっても、高い工賃を求める利用者にしっかりと応えていく努力も必要である。少なくともクリーニング部門に関しては、貴峯荘第2ワークピアと同様に、A型事業への移行も視野に入れていきたいと将来構想を語る。富士山の霊峰を仰ぎながら、身体障害者が希望を持って生活し、自立できるように命名されたという「貴峯」の名に恥じない活動をめざし、社会福祉法人貴峯では新たな時代に対応した福祉サービスを模索している。

  • 貴峯荘ワークピアの利用者の皆さん達
  • 下請け軽作業を行う利用者さん

(文・写真/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。