社会福祉法人槇の里(千葉県いすみ市)

心豊かな暮らしを追求しながら、働く機会の提供と地域連携を目指す「いすみ学園」

槇の里の概要

槇の里は、いすみ学園(生活介護事業、施設入所支援事業、短期入所支援事業)を経営する社会福祉法人である。(この他、2つのグループホームと施設内に障がい者アート美術館『風川美術館』も運営する)

いすみ学園は、千葉県南房総の丘陵と豊穣な田園地帯が織りなす広大な自然の中に、1984年に知的障害者更生施設として設立された。当時、三重県のあすなろ学園が先駆的に取り組んでいた自閉症の療育より、保護者でもあった故・土肥豊理事長・原井利夫施設長たちが中心となって、現在の地に作られたのが始まりである。

施設の基本理念として、「働く機会を確保すること」「心豊かな暮らしをつくること」「地域社会との連携」の3つを掲げている。更生施設でありながら、積極的に生産活動を推進してきたのは、この理念によるところが大きい。2010年に新体系による生活介護事業所に変わってからも、考えはまったく変わりない。利用者の全員に、何らかの形で生産活動に参加してもらうという運営方針を、現在でも貫き続けている。

作業科目としては、外作業(農作業、公園の草刈り、植栽管理)、食品加工(ジャム、ブラウニー、パウンドケーキ、クッキー、梅干、らっきょう、ピリカラ漬、手づくり味噌)、手工芸(万木織り)、廃油石けん等、実に多彩である。さらにはグループ実習と名付けた地元企業(水産加工会社)へ出向く施設外就労にも積極的に取り組んでいる。

  • いすみ学園 ファッサード▲いすみ学園本館
  • 槇の里・いすみ学園の全景▲いすみ学園全景

根強い人気を誇るさまざまな食品群

いすみ学園を代表する自主製品が、ジャムやパウンドケーキだろう。今でこそ販売先は地元の直売所等に留っているものの、一時期は中央授産事業振興センター(日本セルプセンターの前身)が運営していたナイスハートショップ・パレットの通信販売によって全国から注文が殺到するなど、人気が大ブレーク。生協での取り扱いも始まるなど、更生施設の生産活動の域をはるかに越える売上を達成していた。あまりの人気に生産が追いつかず、「利用者主体の生産活動」という基本から逸脱するようになってきたため、製品アイテムと販売先の整理をやむなく行ったのだと堂下勉施設長は説明する。

「原材料にも徹底的にこだわって、できるかぎり地元で収穫された素材を使うという点が評価され、ものすごい種類の製品加工が一気に動き出した時期がありました。とても素晴らしいことなのですが、(就労支援施設ではない)私たちは『働く機会の確保』と同時に、『地域密着』であることも非常に大切にしています。地元の人たちに製品をお届けできないのでは本末転倒なので、もう一度原点に戻ろうと考えたのです」

ということで現在の製品ラインナップはピーク時に比べるとスリムになった感は否めないが、品質の高さは相変わらずだ。とくに施設内で収穫される作物を加工した「梅干し」、「うめジャム」、「夏みかんジャム」「らっきょう」、麹からすべて手づくりの「手前味噌」等は、今でもまったく変わらぬ伝統の味わいを引き継いでいる。近年はいすみ市内にも大手ホームセンターなども出店してきたため、取り扱い店も少しずつ増えているらしい。ジャムのラベルは、障がい者アーチストとして人気の作家・田辺綾子さんにオリジナルで描き起こしてもらったもので、とても可愛いと大好評だ。

この他にも、地域の学校給食センター、飲食店、個人宅等から回収してきた使用済み天ぷら油を加工して作る「リサイクル石けん(固形・液体)」等、いすみ学園ならではの地域密着型の製品を製造している。

  • うめジャムに使用する梅を処理加工している利用者さんたち▲梅干し作り
  • 夏みかんジャムに使う蜜柑を処理加工している利用者さんたち▲ジャムの下処理

現在は、外作業やグループ実習が中心になりつつある

売上数字としては食品加工班が全体の過半数を占めているそうだが、ここ数年で着実に売上を伸ばしてきたのが外作業班の受託作業である。とくに行政から委託される万木城址公園の整備と、農道の植栽事業が大きいのだと田辺清万主任は言う。

「万木城址公園の整備は、年4回の契約で、公園内の除草作業を中心に行っています。戦国時代に築城された城跡があり、房総地区の観光メッカにもなっている公園です。お客さんに気持ちいい時間を過ごしてもらえるために、雑草を刈り、ゴミ集積所まで運搬するまでの仕事を定期的に行っています」

もう一つの受託作業が、広域農道の植栽である。こちらは、全長で3㎞にも及ぶ長い農道の周りを、花で埋め尽くされるように管理する仕事だ。ジニア(百日草)や菜の花の種まきから行って水やりなどをこまめに行うため、花のシーズンが到来すると綺麗に開花するという。房総地区の観光拠点へのドライブコースとしても有名なのだが、その美しさはいすみ学園の利用者たちが支えているわけだ。外作業班の仕事としては、この他にも野菜栽培(らっきょう、キュウリ)等がある。加工班が生み出す自主製品の素材を、利用者たちが丹精込めて育てている。

さらに地元の水産加工会社に出向いていくグループ実習は、とても生活介護事業所とは思えない取り組みだろう。1994年から約30年以上続けて障がいのある人たちを同じ職場に派遣しているため、水産加工という非常にハードな職場にもかかわらず、企業からも大きな戦力として期待されている。グループホームから通う利用者たちは一般就労となったし、いすみ学園の利用者は働く機会を提供してもらっている。

  • 行政から委託される万木城址公園の整備にあたる利用者さんたち▲万木城址公園草刈り
  • 地元の水産加工会社に出向いていくグループ実習風景▲水産加工工場にて

高齢虚弱化への対応が今後の課題

いすみ学園の今後の課題は、多くの障がい者就労支援施設同様に、高齢虚弱化への対応である。とくに利用者の大半を占めている重度の知的障がい者(自閉症)は、40〜50代になると突然体力が落ちてくるケースもある。これまで元気に外作業班や加工班で働いていた人たちが、次々と室内作業への配置転換を迫られるようになったのだ。介護度の高い利用者に関しては以前は室内で軽作業を行ったり、織物等を担当してもらっていたのだが、2022年度よりこれらを万木班として一本化した。

「万木班の利用者さんはバリバリ働くというよりも、手足を動かす『リハビリを目的とする生産活動』と言った方が良いかもしれません。午前中はリハビリテーション機器を使った体力トレーニングや、太鼓の音に合わせたリハビリ体操をした後で、午後はそれぞれの人に合わせた作業をしてもらう...そんなプログラムをこなしながら、ゆったりと日々を暮らしています」と、堂下施設長。

『働く機会の確保』を大前提とするいすみ学園だが、ここはあくまで入所型の生活介護施設である。高い月額工賃の支給を目指しているわけではないため、利用者に支給されるのは年に2回のボーナスのみという。その他の事業収益はすべて、鴨川グランドホテルを貸し切った豪華クリスマス忘年会の食事(プレゼント含)や、班単位で年に1度実施する豪勢な1泊2日旅行といった福利厚生に活用されていく。つまり、入所施設の利用者が働くことによって得た利益を、「彼らの生活の質の向上」に役立てることを重要視しているわけだ。

法人設立から38年。高齢虚弱化によって新棟の建設など今後の対応を迫られながらも、働くことにこだわり、障がいのある人が豊かな生活を送り、地域の人と連携する──そんな基本方針は決して揺らぐことがない。いすみ学園はこれからも、利用者一人ひとりの生活に寄り添った支援を続ける施設であり続けることだろう。

  • 農道の植栽事業に従事する利用者さんたち▲広域農道での苗作り
  • 利用者さんによる「さをり織り」風景▲さをり織り

(写真提供:社会福祉法人槇の里、文:戸原一男/Kプランニング

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。