社会福祉法人ぎんが福祉会(山梨県甲斐市)

外部企業との連携によって、ダイナミックな事業展開に取り組む「ぎんが工房」

ぎんが福祉会の概要

ぎんが福祉会は、ぎんが工房(就労継続支援B型事業・生活介護事業)、きららベーカリー(就労継続支援B型事業)、らしりば(就労継続支援A型事業)、コスモス(生活介護事業(通所・入所)、施設入所支援事業、短期入所支援事業)、おひさま(生活介護事業)等の障がい者支援事業を展開する社会福祉法人である。

この他にも、きらり(放課後等デイサービス)、びゅー(居宅介護事業)、相談室りゅうおう(障がい児・者相談事業)、雀のお宿(認知症高齢者グループホーム)、雀のお宿(障がい者グループホームⅠ〜Ⅲ)、ミラテラス(障がい者グループホーム)等も運営する。

法人の設立は、1993年。養護学校(当時)卒業後の重度障がい者たちの働く場として立ち上げた無認可作業所「ぎんが」(1996年開所)がスタートであり、法人認可されてからは身体障害者通所授産施設「ぎんが工房」が設立された。その2年後には痴呆症高齢者・知的障害者共同グループホーム「雀のお宿」を開所するなど、早くから障がいのある人たちの「働く・暮らす」、そして地域密着型の先進的な活動に取り組んできた。

就労支援事業所の作業内容は、ぎんが工房がクッキー製造(OEM受託、オリジナル製品)・軽作業、きららベーカリーがパンの製造販売、らしりばがOEM受託クッキー製造である。B型事業所として県内トップ(56,913円/2020年度実績)の工賃実績を誇るきららベーカリーは、第1回ユニバーサルベーキングカップ全国大会で食パン「特別賞」、第2回ユニバーサルベーキングカップ全国大会でライ麦フルーツ「銅賞」、第7回チャレンジドカップ"甲斐の恵み"「チームワーク賞」を受賞するなど、本格的なパンを製造する事業所として知られている。

  • ぎんが工房建屋の外観
  • ぎんが工房の利用者さんたち

企業の依頼でマクロビオティッククッキーにチャレンジ

ぎんが工房が企業のOEM受託事業として、マクロビオティッククッキーの製造を始めたのは2010年のことである。その経緯について、内藤和恵施設長は次のように語る。

「きっかけは、(工房の生活介護部門の作業として取り組んでいる)さをり織りの展示会(織りのなかま展)を開催するために、山梨県庁近くのギャラリーを借りたことでした。ギャラリーの担当者が、たまたまアルソア慧央グループの方と顔見知りで、マクロビオティッククッキー(保存料・香料・ショートニング・卵・牛乳不使用)の製造ができる障がい者施設を探しており、私たちに仕事の相談がきました。まさしく"糸"が人との縁を結んでくれたと思っています。アルソアというのは、県内に本社を構えて化粧品や健康食品などの製造販売を行っている大手企業です」

しかしこのクッキーは、都内の高級スーパーでも販売されるOEM製品だった。レシピは企業から提供され、作り方について専門家から具体的な指導を受けたものの、納品数は週に約3,600袋(2cm角のクッキーが12粒入)という大きな仕事である。開設以来ぎんが工房ではクッキー製造に取り組んでいたといっても、求められるクオリティもロット数もまったくケタ違いなのだ。

「今から考えたら、本当に無謀だったかもしれません(笑)。すべて同じサイズ(2センチ角)のキャラメル型に仕上げないといけないのに、サイズのバラつきが出たり、焼きムラがなったり...。アイスボックス型クッキーなので型抜きクッキーと違って生地づくりが難しく、仕込み工程に時間がかかると油が浮いてきてしまいます。こんな感じで3ヶ月くらい何回も試行錯誤しながら乗り切りました。指導された通りに作ってるつもりでも、実際の現場で大量に作ると次々に問題が発生するわけです。これを解決するには、失敗を繰り返しながらカラダで覚えていくしかなかったですね」と、内藤施設長。

こうした必死の努力が実り、安定的に高品質のマクロビオティッククッキーを製造できるようになると、ぎんが工房のクッキー事業は着実に成長を遂げていく。オリジナルクッキーの製造だけでは30万円程度だった月額売上が、OEM受託だけで約10倍になったのだ。当然、月額平均工賃の向上にも大きく寄与している。現在でも平均的に3,500袋〜4,500袋の製造をこなし、ピーク時には6,000袋を製造したこともあるという。

マクロビオティッククッキーの受託製造が非常に好調なため、ぎんが福祉会はこの製造作業を専門に請け負う事業所として2020年に就労継続A型支援事業所らしりばを開設している。(現在、マクロビオティッククッキーの製造は、ぎんが工房、らしりば、他法人2施設、計4施設で分担している)

  • マクロビオティッククッキーの製造風景
  • マクロビオティッククッキー

都心の三つ星レストランとのコラボも進行中

これ以降、ぎんが工房と外部企業とのネットワークは大きく広がっていく。今年から(2022年)都内の三つ星レストランとのコラボ企画も始まったのだと、サービス管理責任者の川村有香さんはうれしそうに語る。

「山梨県の北杜市にあるワイナリー(ポーペイサージュ)が、東京西麻布にある三つ星フレンチレストランL'Effervescence(レフェルヴェソンス)と組んで、今まで破棄していた滴下ブドウを使ってジャムを作り、ペシャワール会(アフガニスタン支援)に寄付したのがこのコラボの発端になります。同様の社会貢献プログラムを広げたいとの意向から、山梨県の紹介で私たちに連絡していただいたのです。ぎんが工房のレシピを元に『ワインに合うクッキー』をシェフたちが作ってくれることになりました」

この新製品は「チーズとローズマリーのクッキー」となり、2022年9月に開催された「全国ナイスハートバザール2022 inちば」にて先行販売された。チーズの塩味とローズマリーの香りがクセになる素材にこだわったクッキーで、紅茶や珈琲はもちろんのこと、お酒のおつまみとしてもぴったりの味わいだ。新製品の開発が決まったことをぎんが工房のInstagramで取りあげると、非常に大きな反響があったという。何しろレフェルヴェソンスのInstagramは、3.2万人ものフォロアー数を持つ。そんな発信力あるSNSでぎんが工房の記事がリポストされたため、多くの人たちが「いいね!」と期待を表し、事業所へメッセージを送ってくれたのだ。

この出会いをきっかけとして、ぎんが工房ではオリジナルクッキーの全面改訂にも着手することになった。長い間ずっと作り続けてきた工房の顔とも言える製品レシピを、レフェルヴェソンスで働いていたパティシエ(現在は軽井沢のレストランに勤務)に作り替えてもらうのだ。じつに思い切った改革だが、決してトップダウンの指示ではないことが素晴らしい。「チーズとローズマリーのクッキー」の試作を繰り返す中で、今後のクッキー事業のあり方についてスタッフが意見を交わすうちに、全員が同じ方向に向かっていったのだそうだ。

「県内にも似たようなクッキーを作る福祉事業所はたくさんありますから、販売会ではどうしても価格勝負になりがちでした。でも1袋100円のクッキーをどれだけ売っても、純利益はほとんどありません。利用者工賃を向上させるという観点に立つと、根本的に発想を変える必要があると痛感したのです。地元の黒富士農場(自然循環農法を取り入れたオーガニックファーム)から仕入れたさくら卵を使うなど、新しいクッキーは材料にもこだわっているので、価格も当然高くなります。これまでと同じ売り方では、まったく通用しないと思います。コンセプトにあったロゴマークを作ってブランド力を高めるとか、販売戦略そのものをゼロから構築し直す必要があるでしょう。現在のクッキー事業の売上は9割がOEM製造ですが、これからはオリジナル製品の割合を少しでも増やしていきたいと思っています」と、川村さん。

  • タイアップクッキー(さくら卵使用)
  • ぎんが工房のオリジナルロゴマーク

障がい者の事業所にとって、工賃向上と共に大切なこと

大きな企業との依頼を無事に一つ成功させると、次々と新しい仕事が舞い込んでくる。ぎんが工房は、今まさにそんな正のスパイラル状態にあるようだ。「バッタやコオロギ等の昆虫粉を練り込んだクッキー試作」、eスポーツ大会の景品用として「海藻から抽出した目に優しい成分を練り込んだクッキー試作」といった、ユニークな仕事の打診が後を絶たないのだと内藤施設長は満足げに語る。

当然、月額平均工賃も増加の一途を辿っている。コロナ禍の中で大きく実績を下げている事業所が多い中で、ぎんが工房の数値は16,406円(2019年)→24,247円(2020年)→26,710円(2021年)と上昇してきた。2022年は30,000円を目標値としているが、上半期の実績から十分にクリアできそうな状況なのだという。

そんな中にあって、もう一つ重要視しているのが「利用者の特性を活かした作業の開拓」である。OEM製品の受注拡大を続ける中で、ぎんが工房では大量生産の現場に対応できなくなった利用者の存在が課題になってきた。もちろん作業工程の見直しやスキルアップ教育によって、ある程度はフォローできる。しかし障がいの特性や重度化等によって、仕事内容そのものに向かない利用者が増えてくるのは避けられない。

そこで軽作業や施設外就労など、個性に合わせた仕事を増やしていくことが重要になる。その点についても、内藤施設長たちは準備を怠らない。むしろ企業との関係が広まっていけば、仕事への依頼は増えていくはずだと確信している。事実、最近ではぎんが工房だけではこなせないほどの量の軽作業が依頼されるようになり、近隣施設と協力しながら対応しているそうだ。

「今後はさらに、生活介護(生産型部門)についても工賃向上をめざしていくべきだと私たちは考えています。生活介護だから工賃が低くても仕方ない...という考え方ではなく、でも決して無理せずに働ける環境を整えていく必要があります。その意味でも、新しいオリジナルクッキーの販売活動は重要ですね。製品がヒットすれば、シール貼りとか、製品の箱詰めとか、生活介護の利用者にも委託できる仕事が自然と増えていきますから。これはOEMの受託製造にはないメリットだと思います」と、川村さんも前を向く。

ぎんが工房のもう一つの名物が、月に1回(生活介護事業の休日活動の日)、内藤施設長自らが作っている「キャラクター給食」だろう。コロナ禍で外出活動が難しくなったため、「少しでも外出気分を味わってほしい」という思いで始めたのがきっかけらしい。お母さんが子どもに作るような愛情込めた「キャラ弁」ならぬ「キャラ給」は、利用者たちに大好評。今度はあのキャラクターをつくってほしい...というリクエストまで次々と寄せられ、嬉しい悲鳴をあげている。

この「キャラクター給食」こそが、年々成長を続けるぎんが工房の姿を象徴しているような気がする。「たとえどんな状況になっても、今を楽しむ気持ちを忘れないでほしい」という内藤施設長の非常に前向きな発想である。だからこそ仕事は忙しくても、笑顔を忘れず、職員も利用者たちも活き活きと働く環境が生まれてきた。そんな職場のムードに惹かれ、これからも外部からたくさんの応援団たちが集まって、新しい仕事の相談に訪れていくことだろう。

  • キャラクター給食(1)
  • キャラクター給食(2)

(写真提供:社会福祉法人ぎんが福祉会、文:戸原一男/Kプランニング

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。