社会福祉法人湘南学園(滋賀県大津市)

事業活動を通じて「やさしさ、勇気」をクリエイトする「れもん会社」

湘南学園の概要

湘南学園は、児童養護施設「湘南学園」、認定こども園「保育の家しょうなん」、障害福祉サービス事業所「れもん会社」(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業)、母子生活支援施設「母と子の家しらゆり」等の福祉事業を展開する社会福祉法人である。

その歴史は古く、1904年(明治37)にまで遡る。日露戦争勃発の年に、戦災遺児や浮浪児を救済する目的で立ち上げた「滋賀県育児園」が前身である。その後、時代の変遷とともに新たな福祉ニーズへの取り組みに着手し、1984年には養護施設にも家庭機能をもたせた小舎制3棟の「こどもの家」、1989年には「保育の家しょうなん」「れもん会社」が相次いで設立されていった。

2005年にはつどいの広場「てくてく」、2011年には母子生活支援施設「母と子の家しらゆり」(大津市からの指定管理)の事業も始まっている。設立から100余年、「いろんな人がいてこそ社会」という理想を実現するために、着実に活動の輪を拡げているのである。

  • 湘南学園 外観
  • 北川さゆり所長、利用者さんたち

障がいのある人たちの働く場「れもん会社」

「れもん会社」は、障がいのある人たちが地域で自立して暮らし、働くことのできる社会をめざすために設立した事業所だ。その運営方針は、施設名に色濃く表現されている。北川さゆり所長(58歳)は、次のように説明する。

「自立した生活を送るためには、それを支える『お金』と『経験』が不可欠です。私たちは『働くこと』を大切にしたいので、施設名にあえて『会社』と付けました。ここに通う利用者さんのことも、私たちは『社員さん』と呼んでいます」

れもん会社の1日は、朝10時の全体朝礼からスタートする。昨日のれもん会社SHOPの売り上げ報告、納品に行った時の感想、担当による昼食の献立の発表等が、次々に報告されていく。説明するのはもちろん障がいのある社員たちだ。自分たちの事業は自分たちで盛り上げていく意識を持たせたいという事業所の信念が、強く現れている。

取材当日は、木曜日恒例のプレイアワーも実施されていた。これは朝礼後の15分を使った、遊びの時間である。障がいのある人にとっては、遊びも重要なクリエイティブ作業。思い切り遊ぶことで、積極的に何かに取り組むという能力が生まれていく。

「プレイアワーを始めてから、職員たちも社員さんの状態をよく把握できるようになりました。一人ひとりに眠っている能力を引き出してあげることを、私たちは大切にしたいと考えています」と、北川所長。

  • 木曜日恒例のプレイアワー
  • クッキー班で作業する利用者さん

保育士の資格を持つ職員のアイデアが光るおもちゃ類

れもん会社の作業は、ものつくり班(木工、織・刺しゅう)とクッキー班に分かれている。ものつくり班では、糸ノコでカットした木片を使った木工玩具類、一般企業からの外注、可愛い刺しゅうをあしらったふきんや袋類、さをり織の生地を使ったポーチ等の各種グッズなどを製作している。

なかでも素晴らしいのは、遊びながら靴ひもの通し方や結び方の練習ができる木製おもちゃ「くつひもできるかな?」、パン屋さんやケーキ屋さんなどのお店屋さんごっこが手軽に出来る「○○屋さんセット」、ごっこ遊びと組み合わせると遊びの幅が広がる「お買い物マネー」、四角に刺しゅうされた絵柄を合わせるとお弁当包みが簡単にできる「ランチクロスできるかな?」、木製サイコロの各面に可愛い絵を付けた絵合わせパズル「6面パズル」等の子ども用玩具だろう。北川所長はそのヒミツを次のように打ち明ける。

「法人が保育施設も運営しているので、異動があり保育士の資格を持つ職員も中にはいます。保育施設でどんなおもちゃが求められているかは、保育士の得意分野。だからユニークなおもちゃをいくつも開発できるのだと思います」

可愛い刺しゅうが施された布巾も、人気商品だ。さまざまな種類があり、選ぶのに困ってしまうほどだ。手縫いならではの優しさと、1枚1枚微妙に違う手作り感こそが、この商品の最大の魅力。社員(利用者)の個性と感性が、小さな布1枚にみごとに表現されている。

  • 四角に刺しゅうされた絵柄を合わせるとお弁当包みが簡単にできる「ランチクロスできるかな?」
  • ふきんや袋類、さをり織の生地を使ったポーチ等の各種グッズなどを製作

地域企業からの依頼で生まれた商品群

もう一つの大きな作業の柱が、クッキー班だ。国産小麦はもちろんのこと、吟味した素材にこだわって、さまざまなクッキー・ラスク・ケーキなどを製造する。一番人気のマカダミアン、ほろ苦いコーヒークッキーにキャラメルとアーモンドをのせたキャラメルクッキー、粗めにパウダー加工した国産緑茶葉を生地に練り込んだお茶クッキー、くるみとバナナの自然な甘みのくるみバナナケーキ、等々。手づくりの優しい味は、地域のお客さんたちから絶大な評判を得ているという。こうした評判が口コミで着実に広がって、大きな仕事の確保にもつながっている。

「ロイヤルオークホテルでれもん会社のクッキーを知ったという方から、キャロブを使ったクッキーを作ってほしいという依頼を受けたことがきっかけで、商品開発が始まりました。地元では人気の味噌屋さんのお味噌を使ったサブレとか、滋賀県産のお茶を練り込んだクッキーとか、次々に依頼を受けています。京都を中心に展開する有名な雑貨店との取引も始まり、小物類だけでなくクッキーなども置かせていただいているのですよ」と、北川所長。

最近のヒット作は、SDGs木製ピンバッジだという。もともとは、建設会社が自社社員のSDGs(持続可能な開発目標)研修参加者用に発注してきたものだった。依頼のポイントは、メタル製ではなく、滋賀県産ヒノキを使った「木製バッジ」とすることである。何度も試作を重ねた末に完成したバッジは、非常に完成度が高く、まさにSDGsの理念を象徴するような製品となった。「せっかくなので、このバッジをれもん会社の新製品として大々的にアピールしよう」と話が膨らんでいき、滋賀県庁内でプレス発表まで行われている。記者会見は、れもん会社、建設会社、滋賀SDGs×イノベーションハブ(滋賀ハブ)の3者合同だったこともあり、多数のメディアに取り上げられ、大きな反響を得たのである。

「おかげさまで企業・団体の社内研修用はもちろん、個人からの注文も着実に増えています。今や、私たちの看板商品になりつつあります。SDGsの趣旨を広めるための活動に、一緒に参加できることが嬉しいですね」と、北川所長はその成果を語っている。

  • SDGs木製ピンバッジ
  • SDGs木製ピンバッジ制作風景

れもん会社の事業コンセプトは、「やさしさ、勇気」クリエイト。ものつくり、人つくり、ネットワークつくりを通じて、障がいのある人が地域で自立して暮らし、働くことのできる社会をみんなで「ともにつくりあう」ことなのだ。「会社」に働く障がいのある社員たちが生み出すステキな商品を広めることで、その目標は着実に歩みを進めていくことだろう。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。