社会福祉法人めぶき福祉会(滋賀県大津市)

利用者の働く意欲にこだわり、その可能性を信じる「多機能型事業所さくら」

めぶき福祉会の概要

めぶき福祉会は、多機能型事業所「さくら」(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業)を運営する社会福祉法人である。事業の始まりは、1977年に開設された無認可作業所「自然堂工房」だった。ここで信楽焼の陶芸づくりを中心に行っていたのだが、観光地としての信楽が衰退するとともに、作業内容は少しずつ変化していった。現在では、食品加工(クッキー製造)や軽作業が加わっている。

(株)島津製作所・島津プレシジョンテクノロジー(株)から委託されるフォークリフトなどに搭載される油圧ギアポンプの部品組立や、島津製作所グループ企業内へのクッキーの無人販売(オフィスグリコ方式)、ビルメンテナンス(除草作業)、障害者入所施設への清掃派遣作業などを通じ、外部(企業)との接点を作り出すことにも力を入れ、利用者たちが「一人の社会人」として成長することを大切にする。

さくらでは就労移行はもちろんのこと、B型事業所でさえも基本的には通過施設という位置づけだ。就職という結果にこだわるのではなく、主体性のある目標を自ら発見してもらう。そのために何ができるのかを徹底的に追求している障がい者就労支援事業所である。

多機能型事業所「さくら」外観

大切なのは、利用者たちの働きたいという気持ち

さくらの平山真司施設長(48歳)は、運営方針を次のように語っている。

「私たちが重要視しているのは、利用者たちが働きたいという気持ちを自らもってもらうことです。作業能力の向上とか、『ホウレンソウ』の徹底とか、金銭管理や生活リズムの徹底、身体の健康管理など、就職するために彼らが学ぶべきことはたくさんあると言われています。でも私は、本人のやる気ほど大切なものはないと考えています」

平山施設長は、具体例として2つの事例を挙げてくれた。1つ目は、島津製作所内に設置されているクッキー無人販売コーナーを担当していた女性利用者の話である。彼女は商品の補充・代金回収を行うために、企業へ毎週通っていた。そこで出会ったある女性社員の存在が、人生の転機となる。オシャレな事務服に身を包むAさんは、彼女にとって憧れの存在となった。「あの人と、一緒の職場で働いてみたい!」という思いは、就職活動へのスイッチを本気モードにした。仕事をするために大切な11か条を簡単にクリアし、本当に夢を叶えて島津製作所の食堂で働くようになったのである。

2つ目は、島津プレシジョンテクノロジー(株)から委託されるフォークリフトなどに搭載される油圧ギアポンプの部品組立を担当する利用者の話だ。ガスケットと呼ばれるゴムに潤滑油を塗り、それを鉄のプレートの溝に埋め込んでセットする。そして完成品の数を数えてラッピングしていく。この部品を月に4〜5万個製造し、企業へと納品している。表裏を間違うとすべて再確認となるため、正確性・確実性が問われる作業だ。さくらでは、あえて細かく「グリスを塗るだけ」「はめ込むだけ」「ラッピングだけ」の3工程に分け、利用者たちの生産性を向上させる工夫がなされている。

じつはこの作業、企業内の社員たちもおなじことを行っているのだが、そこでは一人がすべての工程を担当するため、作業スピードはさくらの利用者たちの方が一見、早く見える。担当する工程が1つしかないのだから当然なのだが、納品するときに作業風景を見た利用者は「自分は社員さんたちに、能力で負けていないぞ」と(いい意味で)誤解した。自信をつけた彼は、思わぬところで就労意欲が高まり、あっという間に一般就職を果たしたのである。

  • ガスケットに潤滑油を塗り、それを鉄のプレートの溝に埋め込んでセットする作業
  • 委託されるフォークリフトなどに搭載される油圧ギアポンプの部品組立作業をする利用者さん

どんな支援も、本人たちのやる気スイッチにはかなわない

こうした事例を元に、平山施設長は説明する。

「働く理由は、なんでもいいと思うのです。私たちがするべきことは、利用者一人ひとりに寄り添って、仕事へのモチベーションを探してあげること。アイドルのコンサートに行きたいという単純な理由だっていい。目的を果たすために働きたいと本人が本気で思うようになれば、それまでの言動がウソのように変身してしまうものなのです」

「さくらから一般企業へ巣立っていった利用者たちが、施設に遊びに来てくれることがあります。驚かされるのは、彼らの成長ぶりですね。たった1ヶ月ほどしか経ってないはずなのに、なんだかとても大人びて見えるのです。(就労移行で)2年間、私たち福祉の人間は一体何をやっていたのだろう?と、落ち込んでしまうほど。社会に揉まれることのスゴさを感じます」

だからこそさくらでは、本人が苦手なことを排除するような先回りの支援(福祉的支援)はなるべくしないのだという。転んでもミスしても、本人が地力で起き上がるチカラをつけるような支援が理想だと考えている。良い思いだけではなく、多少イヤな思いもあえて経験させておきたい。将来きっと起こると予測される出来事を早くから体験し、そこから何かに気付いてほしいからだ。

「施設見学に来た人に私がよく言うのが、ここでは『福祉はしません』という方針です。障がいのある人たちは、これまで親や学校から大切に守られてきました。でも社会というのは、良くも悪くもシビアな世界。私たちがやらなければいけないのは、彼らが社会に出るための意識改革を行うことでしょう。つまり、受け手から主体へ。自分の将来を真剣に考えるようになるサポートを、さくらでは行っていきたいと考えています」と、平山施設長。

  • さくらでは、自分の将来を真剣に考えるようになるサポート
  • 本人が地力で起き上がるチカラをつけるような支援が理想

B型事業所として高い工賃にこだわる理由

通過施設であることにこだわると言いつつも、さくらのB型事業所の月額平均工賃は36,000円を超えている。全国の平均値が15,603円(平成29年度)であるなか、決して低い数値ではない。平山施設長に、その理由を尋ねてみた。

「理由は、きわめてシンプル。私自身は月額平均工賃の数値にそれほどこだわっているわけではないのですが、利用者たちにその上へのステップをめざしてもらうためには工賃も重要。利用者がステップアップしてきた結果が現在の数値というところでしょうか。

高工賃が実現できているのは、施設外就労の仕事をしっかり取れているからでしょう。私は以前、ずっと民間で営業職をしていましたから、企業との交渉には自信があります。そのころ売り込んでいたのは商品やサービスなどの『モノ』でしたが、今はそれが『ヒト』になっただけのこと。ノルマはないけど、仕事に制限もない。非常に面白い仕事だと思っています」

  • 平山施設長はじめ、職員、さくらの利用者さんたち
  • さくらでは、クッキー製造も行っている

平山さんは、陶芸、クッキー製造、部品加工、清掃作業等のさくらの生産活動を「あくまで外部とつながるためのツールにすぎない」と言い切っている。だから施設でどんなモノを作っているとか、どんな販売場所で売られているとか、どんな売上高なのかといった詳細についてほとんど語ることはない。陶芸家やパティシエや清掃マンを育てているつもりはまったくない。めざすのは、あくまで利用者たちが施設を出て、社会の一員として生きていくこと。そのための「接点を作る道具」として施設内の作業がある。そんな考え方を貫いているのだ。

「この発想は、今のところ就労移行の利用者に特化した考えではありますが、B型の利用者にも同じようになってほしいと思っています。もちろん成長のスピードは、人それぞれでしょう。時間はかかっても、少しずつ着実に変わっていく。そんな支援をこれからも行っていきたいですね」

利用者の働く意欲にこだわり、その可能性を信じる「多機能型事業所さくら」の挑戦は、B型事業所のあり方を巡る議論に一石を投じてくれるかもしれない。

(写真・文/戸原一男)

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社会福祉法人めぶき福祉会・多機能型事業所さくら(滋賀県大津市)
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*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。