社会福祉法人扶老会(山口県宇部市)

多様な作業メニューを利用者自ら複合的に選択することで、高い工賃を実現する「サムラ」

扶老会の概要

扶老会は、ハイツふなき(自立訓練事業、生活介護事業、宿泊型自立訓練事業、短期入所事業、自立生活援助事業、宇部市緊急ショート事業)、ヴィラふなき(共同生活援助事業)、サムラ(就労移行支援事業、就労定着支援事業、就労継続支援B型事業)、生活支援センターふなき(特定相談支援事業、一般相談支援事業、障害児相談支援事業、宇部市障害者相談支援事業)等の障がい者福祉サービスを提供する社会福祉法人である。

この他、特別養護老人ホーム・楠園、扶老会総合ケアセンター、ヘルパステーション・ケアヒルズ扶老会、シルバーハウスくすのき、ガーデンテラス扶老会、宇部市北部西高齢者総合相談センター等の高齢者サービス事業所も運営する。

母体となるのは、1967年に設立された医療法人扶老会である。扶老会病院(精神科、神経科・内科)、扶老会クリニック(外来診療)、老健ふなき(介護老人保健施設)、訪問看護ステーション・ケアヒルズ扶老会等の医療施設を有し、1973年には社会福祉法人を設立。特別養護老人ホーム・楠園を初めとするさまざまな介護施設を次々に立ち上げていった。1991年には精神疾患のある方の自立をサポートする精神障害者生活訓練施設・ハイツふなきを開所し、障がい福祉サービスもスタート。こうして完成した医療・介護・福祉の相互連携によるシームレスなケア体制を総称し、「ケアヒルズ扶老会」と呼んでいる。

扶老会における障がい者就労支援の役割を果たす事業所が、サムラである。以前はハイツふなきでも就労継続支援B型事業(草刈り、部品組立、園芸作業などの受託作業)に取り組んでいたのだが、2022年にB型事業をサムラ(レストラン・パン工房)に移管させることにより、効率的な運営を図った。精神科病院を主体とする法人の特性上、ハイツふなき、サムラともに利用者の大半は精神障がい者であったが、近年は知的障がい者の利用も増えている。

  • 丘の上のキッチン サムラ(samura)外観
  • 扶老会の全景

70席もの広大な福祉レストラン

それでは、具体的にサムラの作業科目を見てみよう。まず始めに、丘の上キッチン・サムラである。楠園、老健ふなき、扶老会病院等、ケアヒルズ扶老会内の中心施設と隣接する好立地にあり、職員や患者さんたち(総勢約1,000人)が気軽に利用できるレストランである。席数は最大で約70席(コロナ禍により、現在は40席に縮小して営業中)。店に入ると、常時約4人の利用者が入口に立っていて、明るい笑顔で出迎えてくれる。日替ランチで、牛丼、ちゃんぽん、肉うどん、瓦そば、カツカレー、ビーフカレー、カキフライ定食などの多様なメニューが用意され、落ち着いた雰囲気の空間でゆっくりとランチタイムを過ごすことができるのだ。

営業時間は、11:00〜15:00。毎日20〜30組の利用客があり、コロナ前にはレストランだけで1日約60,000円の売上があったと、サービス管理責任者の小松毅史さんは語る。

「残念ながらコロナ禍がなかなか収まらないので来店されていたお客さんはかなり減りましたが、現在もこれまでと同様に心のこもったランチを地域のお客様・法人職員に提供しています。以前は、法人敷地内で定期開催していたフリーマーケット(約1,000名以上の来場者があったという)で出店してPRしたので、少しずつ固定客が増えていきました。また店内のベーカリーショップも、焼きたてパンがリーズナブルな価格で食べられると、皆さんから今でもとても好評です」

お弁当やパンの出張販売も、丘の上キッチン サムラの売上を支えている。毎週火曜日には10カ所の配達先があるほか、その他の曜日も市役所、保健所、県立病院、看護学校、小中学校、特別支援学校、民間企業...と日替わりで配達や出張販売に利用者とともに出かけて行く。さまざまな民間企業が集う楠木地域(地場)の「地域高齢者見守り隊」にもサムラとして加盟し(弁当分野)、ひとり暮らし高齢者の個人宅に弁当を届けると同時に、お年寄りの見守り活動にも協力しているわけだ。

丘の上キッチン サムラでは、つねに約20名の利用者が働いている。ホール係、調理補助、食器洗い、ベーカリーショップ担当、パン工房、店内清掃、バックヤード作業(シール貼り、袋詰め)等、さまざまな仕事があるため、対人関係が苦手な精神疾患のある方でも無理なく働くことができるという。

  • 丘の上キッチン サムラの店内風景
  • サムラ厨房で働く利用者さん達

草刈り・剪定などの地域活動と施設外就労

これに対して、草刈り・剪定といった地域活動は施設の外に出かけていき、一般道路や民間企業の庭等の美観管理を行う仕事である。草刈りはエンジン式草刈機(チップソー)で雑草を刈っていくため、作業を担当する利用者には「刈払機取扱い作業者安全衛生教育講習」を事前に受けてもらっている。

「この仕事に取り組んだ大きな目的の1つが、精神疾患のある人への偏見を地域から少しでも減らしたいということでした。病気のことをよく知らない人から見たら、利用者たちが危険な刃物を持つのは不安かもしれません。でも彼らが真面目に汗をかいて働く姿を見てもらえれば、それがまったくの誤解だということに気づいてもらえるのです」と、法人副部長(ハイツふなき所長)の佐伯豪さん。

ちょうど、草刈りをする様子を見学させてもらった。自治会が管理する公会堂の上の小高い山がこの日の作業現場で、肩まで伸びる雑草がそこら中に生い茂っている。足場の悪い急斜面をものともせず、利用者たちは職人のように草刈り機を使いこなしている。少しでも気を抜くと事故に繋がりかねないだけに、彼らの表情は真剣そのものだ。危険手当も付くため、時間給も非常に高く設定されている。そのため短時間で効率的に稼ぎたいという利用者は、好んで地域活動を選択するのだそうだ。管理者の三藤賢次さんは、このような「利用者が自由に作業を選択できる」考え方について次のように説明する。

「サムラの作業科目はバラエティに富んでいて、部門毎の時給もまったく違います。レストランの飲食事業は、時給320円(固定時給)ですが、軽作業(企業部品組立て)は時給500円前後(変動時給)、施設外の清掃作業などは時給500円(固定時給)、地域に出かけて草刈り機を使うような危険な仕事になると、時給900円〜1,200円(変動時給)+ 特殊手当になります。どの仕事に就くのかは、基本的には利用者の考え方次第。自分のペースに合わせ、複数の仕事を組み合わせることも可能です。たとえば午前中はゆったりと軽作業の仕事をして、午後は草刈りの仕事でガッツリ働く...そんな働き方も出来るわけです」

利用者に渡される給与明細には、自分が就かない職種の時給単価も記載されている。つまり、どの作業を選べば高い時給がもらえるかが一目瞭然である。少々キツくても短時間労働でより効率的にお金を稼ぐのか、時給は低くてもマイペースでのんびり働ける作業を選ぶのか、あるいはそれを複合的に組み合わせるのか──働き方を利用者が自分の意志で決定できるという、非常に優れたシステムだと言えるだろう。

  • 利用者さんが草刈機を使っての草刈り風景>
  • 剪定などの地域活動

トライ&エラーの繰り返しで、さまざまな仕事に挑戦

知的障がいのある人たちの受け入れが増えてきたとはいえ、サムラで働く利用者たちは精神疾患のある人たちが過半数を占めている。にもかかわらず、利用者の出勤率は90%を超える高さであり、精神障がい者が主体の就労施設としては非常に高い約29,000円(2022半期実績)という月額平均工賃に繋がっている。

これは、「同じ敷地内に住まい(入所施設やグループホーム)がある方も多く、体調が優れないときにはいつでも自宅に戻ることができます。さらに扶老会病院(精神科)も隣接しているから、いつでも医療ケアが受けられます。そんな安心感が、精神疾患のある人たちにはとても大きいわけです」(佐伯さん)ことが大きな要因なのだという。ケアヒルズ扶老会の「医療・介護・福祉の相互連携によるシームレスなケアシステム」が、就労継続支援B型事業の月額平均工賃向上にも大きく機能しているわけだ。

しかも現状に満足することなく、さらに高い工賃を目指し、サムラではウエスや日本茶栽培といった新たな作業にも果敢に取り組んでいる。とくにお茶栽培は、高齢化により耕作放棄地が増えつつある日本茶農園の生産管理を、宇部市農業振興課の仲介もあって宇部市小野茶業組合から引き受けた「社会福祉法人の公益的活動」の意味合いも強い事業である。したがって利用者も、引きこもりの人たちや生活困窮者等、いわゆるグレーゾーンの人たちも積極的に受け入れる方針だ。

「草刈り等の地域活動と同じくらい体力的には消耗する仕事ですが、広大な日本茶農園での仕事は人とあまり触れることなく淡々と進められるというメリットがあります。何よりも、大自然の緑に囲まれて思いきり体を動かすと気持ちが晴れ晴れとします。現在、メインで働いてもらっている利用者さんは、一時期就労から離れてしまった時、見学で訪れたお茶畑の広大な作業環境と放棄茶園の再生にやりがいを感じたとのことで、今では圃場の作業に大活躍してくれてます」と、三藤さん。

サムラが生産管理を請け負っている茶畑は、山口県産の日本茶の9割を栽培するという藤河内茶園(全65ヘクタール)の一角である。ほどよい苦みと渋みが調和した山口茶は、県内では幅広く知られてきた。現在は圃場の生産管理と茶葉の収穫(製茶組合へ卸す)だけの作業内容だが、いずれ和紅茶製造販売などの6次産業化にも着手する予定だという。

コロナ禍によってメイン事業の一つであったレストラン・弁当&パン製造販売事業などが停滞を余儀なくされている今だからこそ、可能な限りさまざまな新分野にも参入し、トライ&エラーを繰り返していく。「それが唯一、工賃アップを実現するための方法だと思います」と、佐伯さんは言う。サムラの限りないチャレンジに大きな拍手を送り、その行方を見守っていきたい。

  • 日本茶農園(藤河内茶園)の生産管理風景
  • はぎれ、雑巾作成風景

(写真・文:戸原一男/Kプランニング

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。