社会福祉法人伊方福祉会(愛媛県伊方町)

自家製造する和紙を使った賞状印刷など、特殊印刷も得意な「ワークいかた」

伊方福祉会の概要

伊方福祉会は、ワークいかた(生活介護事業、就労継続支援B型事業、就労移行事業)を運営する社会福祉法人である。この他にも、指定特定相談事業、指定一般支援事業も受託する。

施設のスタートは、1982年に設立された無認可の伊方福祉作業所だった。その後1991年に社会福祉法人の認可を受け、身体障害者通所授産施設ワークいかたとして再出発を図っている。

当時は大手電機会社の下請けとしてビデオやカメラの電子部品組み立てや、電力関連会社から発注される蛍光灯安定器配線等の仕事を行い、高い月額平均工賃を誇っていた。しかし、これらの発注先工場が次々に海外へ移転していくと、仕事が激減。1995年頃から下請け依存をやめ、自主事業への業務転換を行っている。

現在の主力となっている紙すき、印刷、軽作業(衛生用品組立)、食品製造(つわぶき漬け物)などの作業は、こうした流れから取り組むようになった。

  • 伊方福祉会 外観
  • つわぶきの採取をする利用者さん(写真提供:伊方福祉会)

自生するつわぶきの採取から行う和紙づくり

ワークいかたの名物とも呼べる作業が、つわぶき和紙の製造だろう。つわぶきとは、西日本一帯に自生する菊花の多年草だ。施設がある伊方町の「町花」でもあるこの花の茎皮を原材料にして、和紙を漉いていく。

材料は施設のまわりの野山にいくらでも生えているため、利用者と職員がつわぶきを採取するところから作業はスタートする。その後、鍋で煮たつわぶきの皮を剥ぎ、自然乾燥。その後、水に浸してあく抜き、煮沸、漂白、等を何度も繰り返す。

これにこうぞと木材パルプ(紙パック)を加え、粘材を加えて練っていくと、ようやくつわぶき和紙の原料の完成である。あとは普通の和紙の作り方とまったく同じ。材料を水に溶いた漉舟の中に簀桁(すげた)を入れ、前後左右に少しずつ揺らしながら引き上げていくのである。

この職人作業を担当しているのは、耳が聞こえない障がいのある利用者だ。当初からずっと紙すきを担当しているため、今やこの作業のエキスパート。指定された通りの均一の厚さの和紙を、淡々と漉き続けている。

つわぶき和紙はハガキや便せんなどの自主製品として販売するほか、卒業証書の用紙にもなる。伊方町内のすべての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の卒業証書として採用され、その印刷まで請け負っているのだ。独特の風合いが高級感を醸し出していて、関係者からはとても好評だという。卒業シーズンには毎年1,000枚程度の発注がある。漉いた紙を乾燥し、規格サイズにカットし、文面を印刷する。納期厳守の仕事ゆえ、作業所内はてんてこ舞いの状態になるそうだ。

特殊な案件も積極的に受注し、高工賃を支える印刷事業

つわぶき和紙の卒業証書印刷からも推察できるように、ワークいかたの印刷事業は手間のかかる特殊な案件が多い。電力会社が工場内設備の定期検査を行う時に使う作業票、伊方町が子育て世帯に支給する商品券「愛顔っ子応援券」、障がい者に支給されるバス・タクシー無料券、等々。もちろん冊子やパンフレットなどの印刷もあるのだが、手作業の製本工程を必要とする仕事も積極的に引き受けている。その結果、印刷業をスタートした2008年以降、着実に売り上げを伸ばしてきた。

「私たちが印刷業を始めたのは、印刷事業の衰退が叫ばれてからのこと。時代に逆行する形で始めたのがむしろ幸いしたのかもしれません。地域の印刷会社が次々に徹底したため、ライバルが減っていったのです。手間のかかる仕事に関しては、私たちの得意分野とも言えます。他に担当できる会社がなくなりつつあるので、年々この種の仕事は増えています」と、管理者の根来六公さん(59歳)は語る。もちろんあまりこの手の仕事が増えすぎても困るだろうが、技術力をアピールする格好のサンプルになっていることは間違いない。

こうした地道な仕事を受注することにより、印刷事業は年間で1千万円ほどの売上をキープ。この数字が、現在のワークいかたの高工賃(月額平均工賃約33,500円)を支えている。2015年4月から施行された障害者優先調達推進法の影響も大きく、とくに近隣の八幡浜市では、積極的に随意契約による発注を増やしているのだという。今後はさらに愛媛県共同受注窓口経由による官公庁関係の受注増も期待されている。

  • 作業票、商品券、冊子、パンフレットなど印刷物や、手作業の製本工程を必要とする仕事も受注する
  • ワークいかたの印刷事業、印刷機を操作する利用者さん

今後のさらなる工賃アップの鍵は、農業への参入か

地方の小さな施設としては非常に高い水準の平均工賃を維持するワークいかただが、根来さんは現状の数字には満足できないと語る。

「私は昔の授産施設時代からここに在籍していましたから、非常に高かった当時の工賃水準を知っています。その意味では、現在の数値はまだまだ不満足ですね。工賃アップの鍵となるのは印刷事業でしょうが、作業に関われる利用者が限られてしまうのが最大のネック。もう一つの柱として、農業への参入ができないかと検討しているところです」

施設がある伊方地域は、温州みかんの産地としても有名である。まわりはみかん畑に囲まれているといっても良い。しかし最近は高齢化と後継者不足のため、みかん農園の存続そのものが危うくなっている。数年後には、次々と廃園になるのではないかと危惧されているのだ。

そこで根来さんは、みかん農園そのものをワークいかたで引き継げないかと考えている。農園を守ってくれるのならば、無料で預けたいという人たちはいくらでもいる。初期コストをかけずにみかんを生産できるのであれば、新たな事業としての可能性は大いにあるだろう。まずはみかんの収穫を手伝うことからスタートして、少しずつ交渉に入る予定なのだという。

根来さんは今年度(2019年)の1月から新たに管理者に就任すると、施設全体の作業構成や事業展開のあり方を変えてきた。これまでのしがらみや歴史にとらわれず、将来の見通しが立たないものは廃止し、伸びる可能性がある分野には思い切って進出していく。これからがまさに新施設長の腕の見せ所である。大きな目標を掲げるワークいかたの挑戦に、注目していきたいと思う。

  • ワークいかた管理者の根来六公さんと利用者さん達のスナップ画像
  • つわぶき和紙の圧搾作業をしている利用者さん

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。