社会福祉法人萌友会(長崎県長崎市)

四季を通じて、自然や地域住民とのふれあいを大切にする「コリアンダーの家」

萌友会の概要

萌友会は、コリアンダーの家(就労継続支援B型事業)、シーズン(共同生活援助事業/短期入所事業)を運営する社会福祉法人である。施設の前身となるのは、1998年にスタートした無認可共同作業所「現川(うつつがわ)小規模作業所」だった。当時はまだ民間会社のサラリーマンだった現理事長の馬場隆幸さん(61歳)が、重度知的障がいのある長女の将来を案じ、彼女が安心して暮らせる場所を作りたいと、一念発起して立ち上げたのだ。

「娘は自閉症で、強度行動障害の持ち主。普段はとても可愛いのですが、パニックを起こすと人をたたいたり、車のフロントガラスを足で蹴破ったり、消火器を見れば所かまわず粉をぶちまけたり、近所の家のテレビや玄関ドアを壊したり......と、手が付けられなくなります。さらに同居していた私の父は、肝性脳症のために精神的にも不安定。娘をこっぴどく叱ったり、たたいたりすることもある。いつまでこんな生活が続くのか、本当に思い悩んだ日々でした。専門家に相談しても、これだけ行動障害が激しいと預かってくれる施設はないだろうとのこと。それなら自分でやるしかないと思い立ち、娘が小学6年生の時に会社を辞めて作業所をスタートさせたのです」

  • コリアンダーの家 現川本館 外観
  • コリアンダーの家 築町出張所 店頭画像

そんな経緯で始まった施設だけに、運営方針は非常に明確だ。自分の娘のように預け先が見つからず、「本当に困っている人が通える作業所」にすることである。自宅の6畳を解放し、まわりの畑にハーブを植え、近所の陶芸家の先生から植木鉢の作り方を教えてもらう。こうして出来た無認可作業所は、社会福祉制度の変革とともに運営体制を整えていった。現在、コリアンダーの家は、現川本館15名、築町出張所13名が通う定員20名の就労継続支援B型事業所(内、施設外就労7名)となっている。

季節感を感じられ、利用者の個性を活かした作業

コリアンダーの家の中心となる作業内容は、陶芸とハーブ栽培、ハーブ関連製品の製造販売である。施設名でもあるコリアンダーは、スパイスに良く調合されているせり科のハーブ。葉や茎は独特の強烈な匂いがあるが、成熟した実を丹念に潰すと素晴らしい香りに変化する。つまりコリアンダーの強烈な個性を利用者になぞらえ、しっかりと支援することで個性豊かな彼らを社会参加できるように導きたい。そんな願いが込められたネーミングなのだ。

馬場理事長は、語っている。「施設を始めるに当たり、ハーブ栽培のように、季節感を感じられる作業を行うことには、とてもこだわりました。運営規程にわざわざ『四季を通じて、自然や地域住民とのふれあいを経験させる』と記載しているほどです」

  • 収穫したハーブを手作業でピッキング
  • ハーブ栽培の収穫をする利用者さん達

ハーブ類はそのまま芳香剤(ポプリ)として販売するほか、ミントティー、カモミールティー、ステビア&ミントティー、レモングラス&レモンバーベナティーなどのハーブ茶、ハーブソルト等の自主製品にも加工している。沖縄産の天然塩を高温で20分以上焙煎し、自家製ハーブをふんだんにブレンドした「ハーブのお塩」はとくに自慢の製品だ。料理に使うと魚や肉の臭みを完全に消し、まろやかな味に仕上げてくれるという。窯で焼く陶器にも、自家栽培のセイタカアワダチソウの釉薬が使われている。

「ハーブの香りに囲まれたり、陶芸の土いじりをする仕事を毎日おこなっていると、利用者たちの心は自然と安定してきます。施設に来た当初は毎日のように、自動販売機の空き缶ゴミをばらまいてばかりいた男の子も、今ではまったく問題行動がなくなりました。彼が自由気ままに作り出す湯飲みは、非常にユニークな造形のものばかり。みんながそれを褒めてくれるので、いつの間にか自信がついたようなのです。その変化には、両親や学校の先生もとても驚いています」

  • 沖縄産の天然塩を高温で焙煎しハーブをブレンドした「ハーブのお塩」
  • コリアンダーの家の陶芸品

清掃などの施設外就労で高い工賃を実現

もちろんB型事業所である限り、高い工賃への挑戦は避けられない課題だろう。そこで取り組んでいるのが、クロネコDM便の配達や清掃作業(ビルの公共スペースやATM等)である。長崎市の繁華街でもある築町(旧県庁坂通り)に出張所を設け、そこを拠点にして都市型の事業活動が始まっている。出張所の1階には、ショップもオープン。コリアンダーの家で製造するハーブティー、ポプリ、ハーブのお塩、コーヒーカップ等のグッズを直接販売できるようになった。店にはこの他、手づくりの小物類も多数陳列されている。

「この小物類は、2階の事務所で利用者たちが作っています。ゴム風船を土台にし、新聞紙を貼り固めた上に、手でちぎった色紙で模様をつけているのです。貯金箱、小物入れ、ランプシェード等、いろんなアイテムがあるのですよ」と、ショップ担当の濵田由子さんが説明する。

ちぎった色紙から生まれるこれらの独特な製品群も、じつは馬場理事長の娘さんが大量に生産し続ける折り紙の処理対策から生まれたものだという。それまではごみとして廃棄していた折り紙を、別の利用者に手でちぎってもらう。それを小物の飾りとして活かすことで、ユニークなグッズに生まれ変わったのだ。このように利用者たちの行動特性を活かして製品づくりをし、それを世の中に送り出していく。コリアンダーの家では、そんな考え方をとても重要視する。

「私は17年間民間企業でさまざまな仕事に就いてきましたから、さまざまな営業ノウハウをもっています。日本道経会長崎支部や長崎みなとロータリークラブにも加盟し、地元企業トップとの繋がりも増えてきました。県内17店舗ある自動車ディーラーに顧客サービス用のハーブティーを購入してもらったり、ロータリークラブメンバーの奥様向けギフトセットを発注してもらうなど、大口の仕事も増えています。新規の仕事として、竹細工で加工した花器の製造依頼をしてくれた企業もありました。ビル清掃作業を発注してくれているのも、日本道経会の参加企業です。これからも積極的に地元企業と連携を取り、売り上げ確保に努めていきたいと思います」と、馬場理事長。

  • 風船を土台にして、小物の生地を作っていく風船を土台にして、小物の生地を作っていく
  • ステンドグラス風のランプシェードステンドグラス風のランプシェード

いつまでも安心して暮らせる居場所を作りたい

冒頭でも記した通り、コリアンダーの家は馬場理事長が強度行動障害のある娘さんのために始めた施設である。そのため働く場だけに留まらず、シーズン(グループホーム)も立ち上げ、彼女がいつまでも安心して暮らせる終の棲家を用意してきた。彼女と同じように、重度の障がいのため受け皿となる施設がなく、困っている人たちが地域には隠れているはずだ。馬場理事長は「娘のために始めた」と言いつつも、結果的にそれはたくさんの関係者を救うはずだという信念をもっている。

最後に、今後の展望について伺ってみた。

「作業所を始めてみて、自分の子どもはしっかり将来を託せる人や組織にまかせるしかないと確信しています。これからの使命は、創業者である私自身が培ってきた知識や遺伝子を、次の世代に引き継ぐことでしょう。いつまでも私が施設を運営できるわけではありません。若い職員の教育に、力を注いでいきたいですね。

もう一つの課題は、利用者たちの高齢化。歳をとってしまうと、現在の制度ではグループホームでは暮らせなくなってしまいます。かといってスムーズに高齢者施設に移れるわけではありません。重度障がいのある人たちが70歳を過ぎても、医療的ケアを受けながら暮らせる施設を作ろうと思っています」

コリアンダーの家がめざすのは、たとえ小さな規模のままでも、本当に困っている人たちを地域の中で受け入れ、地域の人たちがそれを支えるシステムづくりである。馬場理事長は、着実に未来に向かって歩みを進めている。

  • コリアンダーの家 職員、利用者スナップ画像
  • コリアンダーの家 笑顔の利用者さん

(写真・文/戸原一男)

Website URL

社会福祉法人萌友会・コリアンダーの家(長崎県長崎市)
http://www.coriander.jp

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。