社会福祉法人飛翔会(長崎県大村市)

おこさまランチ専門店KINOBUTAで勝負を賭ける「ワーキングヒルズ」

飛翔会の概要

飛翔会は、ワーキングヒルズ(就労継続支援B型事業・生活介護事業)を運営する社会福祉法人である。大村湾を見渡す自然豊かな風景の中で、1997年の設立以来ずっと、さまざまな作業にチャレンジしてきた。

作業内容は、農園(米・椎茸・野菜)、自主製品(缶バッジ・縫製)、リサイクル(ペットボトル・アルミ缶)、委託作業(箱折り)、施設外就労(清掃)、レストラン(KINOBUTA)などである。

多様な仕事を用意することで、どんな利用者にとっても働きやすい環境づくりに留意してきたが、B型事業所には近年、より高い工賃目標が課せられている。ワーキングヒルズでも施設外就労に力を入れることによって、以前は10,000円台前半に過ぎなかった平均月額工賃を倍増させている。

さらに大きな飛躍をめざすために、2018年4月には大村ボートレース場内におこさまランチ専門店レストランKINOBUTAをオープン。既存の福祉事業の甘えからは完全に脱皮し、一般市場をターゲットとした本格的な飲食事業への挑戦である。

  • 縫製作業に従事する利用者さん
  • 縫製作業に従事する利用者さん

お子様ランチに特化したレストラン

KINOBUTAがオープンしたのは、大村ボートレース場内の野外遊具スペースだ。近年、ボートレース場は新しいアミューズメントパークへのイメージチェンジが始まっている。競艇発祥の地・大村ボートレース場は、そんな大改革の象徴的存在である。恋人同士や家族みんなで訪れても楽しめる空間へと進化を遂げているのだ。ワーキングヒルズの矢野武志施設長(41)は、この事業に取り組んだ理由について次のように語る。

「きっかけは大村市障がい福祉課の課長補佐(当時)の楠本学さんが、日本財団主催の就労支援フォーラムNIPPONに参加し、『はたらくNIPPON!計画』(現・日本財団はたらく障害者サポートプロジェクト)の情報を持ち帰ってくださったことでした。私自身、新しい発想で新事業に取り組む機会を探っていたところなので絶好のチャンスと思い、手を挙げさせていただきました」

お子様ランチ専門のレストランという珍しいスタイルにしたのは、矢野さんなりの狙いがあった。改修された大村ボートレース場内には長崎チャンポン、皿うどん、佐世保バーガー等こだわりの飲食店が並ぶフードコートがあるが、子どもをターゲットとした店舗はない。一方で場内では、親子が楽しめるイベントが多数開催されるなど、新しい動きが始まっている。思い切って「お子様ランチ専門」にすれば、大いに話題になると考えたのだ。

店内には食事をするだけでなく、子どもたちが存分に楽しめる仕掛けをたくさん盛り込んだ。キッズスペース、おもちゃ貸出コーナー、ボールプール、プラレール、多数の絵本、アニメが常時上映されているモニターなど。

メインメニューのお子様ランチには、オマケとして専用コインが付いている。これを店内に設置された「ガチャガチャマシーン」に挿入すれば、光るおもちゃをゲットできる仕組みだ。屋上には天然芝が敷かれ、競艇ボートの実物も展示されている。これほど充実した空間なら、親子連れのお客さんはゆっくりと店内でくつろげるのは間違いないだろう。

KINOBUTA自慢の美味しいメニュー

お子様ランチ専門と銘打つだけあって、KINOBUTAのメニューには子どもが好きなものばかりが並んでいる。可愛い店舗キャラクター・キノブタを象ったライスが可愛い「スペシャルお子様ランチ」を筆頭に、カレーライス、オムライス、手ごねハンバーグライス、ナポリタン......等々。

小さなお子様向けには、離乳食も用意されている。食品アレルギーにも対応しており、子どもの年齢によって初期・中期・後期と三段階のメニューがある。「おかゆとおかずのセット」(初期用)にはすり鉢が添付されており、子どもの状態にあわせてお母さんが具材をさらに細かくペーストすることも可能だ。

大人にオススメなのが、「復刻版お子様ランチ」だろう。子どもの頃、デパートのレストランで食べたあの懐かしい味を完全再現したものだ。ケチャップライス、エビフライ、ハンバーグ、カニクリームコロッケ、プリン、駄菓子を、楕円型アルミ皿に載せた豪華セットとなっている。ケチャップライスにはもちろん、国旗が立つ。この他、多数の食材をワンプレートにした「スペシャルおとなさまランチ」もある。

どれも地元大村の新鮮な食材を中心に取り入れ、ワーキングヒルズの農園班が栽培した米・椎茸・野菜類もふんだんに使っている。手づくりにこだわっているため、すべてのメニューは注文が入ってから作り出す。調味料となるケチャップすら、市販ものは一切使わない凝りようだ。食後に出てくるコーヒーも、ホール係担当の利用者によるハンドドリップである。著名な珈琲レストランで経験を積んだ田島隆広さん(KINOBUTA職業指導員)が徹底的に仕込んだだけあって、すっきりした味わいを引き出す自慢のコーヒーとなった。

  • 大人には懐かしい「復刻版お子様ランチ」大人には懐かしい「復刻版お子様ランチ」
  • 大人気の「スペシャルお子様ランチ」大人気の「スペシャルお子様ランチ」

目指すのは、KINOBUTAを中心とした地域交流

KINOBUTAがオープンしてから約1年半。今やすっかり、大村ボートレース場の顔となるレストランにまで成長している。とくに土日の親子イベントがある時などは、店内は大盛況となるそうだ。矢野さんは嬉しそうに語る。

「家族と一緒に来ても、お父さんはボートレースに行き、その間、お母さんと子どもたちはKINOBUTAで食事をしながらゆっくり時間を過ごす。そんな風景がたくさん見受けられるようになりました」

レストランには、ボートレース関係者も多数訪れてくるそうだ。日本ボートレース選手会長崎支部の支部長・飯山晃三選手や、副支部長・山本浩輔選手などが来店した写真が店内に飾られている。安全な食材を使ったメニューだからこそ、カロリー制限の厳しい選手たちも安心して食べられるのだろう。

今後の目標は、売り上げの安定化だという。立地上仕方ないことだが、土日・祝日と平日の集客数に圧倒的な差が出てしまう。しかも今年の9月17日よりボートレース場そのものの開門が、平日は14:00(令和元年9月20日取材時)となった。レストランにとってランチタイムに営業できないのは、相当な打撃だろう。しかし矢野さんはむしろ、新たな戦略を練り直すチャンスととらえている。

「KINOBUTAが親子でこんなに楽しめる空間であることをもっとアピールできれば、お母さんたちの集会等にも気軽に使ってもらえると思うのです。そうなれば、ボートレースとは無縁のお客さんももっと集客できるはず。イメージ改革を進める大村ボートレース場からも、この方針はとても期待されています」

全国で初めてボートレース場の中に建設された福祉施設のレストラン、KINOBUTA。この事業が成功すれば、各地へと波及する可能性も秘めている。事実、最近は他県ボートレース関係者からの視察が相次いでいるというのだ。

「目標は、KINOBUTAをA型事業所にすること」という矢野さんの夢が実現すれば、各地のボート場から障がい者就労系事業所に出店依頼が続出するかもしれない。そのためにも、ワーキングヒルズの挑戦は続いていく。

  • KINOBUTAで食事をとるお母さんと子供さん(写真提供:社会福祉法人飛翔会)
  • 飛翔会の職員・利用者のスナップ画像

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。