社会福祉法人熊本県手をつなぐ育成会(熊本県熊本市)

カラー軍手指人形の大ヒットで、売上高を3倍に伸ばした「熊本こすもす園」

熊本県手をつなぐ育成会の概要

熊本県手をつなぐ育成会は、1956年に「熊本手をつなぐ親の会」として発足した団体が前身であり、知的障がいのある人とその保護者を中心として、障がい者の教育及び福祉の充実と共生社会の実現に努めてきた。現在も17の育成会と5分会の地域育成会、23事業所が加盟する事業所協議会をとりまとめる活動と障がい者の権利を擁護する公益事業、それに、熊本こすもす園などの事業運営の活動を行っている。

事業運営としての熊本こすもす園は、(施設入所支援事業、生活介護事業、短期入所事業、就労継続支援B型事業、就労移行支援事業、就労継続支援A型事業、共同生活援助事業、相談支援事業)、等の障害者支援事業を行っており、ふれあい喫茶りんどうは、熊本県庁内の喫茶店として収益事業を行っている。

左から坂田茂支援課長、坂口歩美支援員、沼田宗生施設長

からあげ専門店を運営するA型事業所

それでは、熊本こすもす園の2つの就労事業を見ていこう。まずはからあげ専門店「からあげ聖林(ハリウッド)」を運営するA型事業所「ハリウッド」である。「からあげ聖林」というのは、唐揚げの聖地・大分県の中津地区を代表する一大チェーンだ。現在、福岡県を中心に全国15の支店があり、九州地区では非常にメジャーな存在だという。店舗は、熊本県初の業務提携店として2011年12月にオープンした。その経緯について、沼田宗生施設長は次のように語る。

「私たちの事業所は、もともとは入所授産施設だったのですが、2001年に熊本県庁内にふれあい喫茶りんどうを収益事業として開店し、就労事業の考え方の幅が広がりました。法律の改正によって、A型事業が創設され、より高い工賃を目指すことができそうな利用者がいたので、A型事業所にチャレンジすることになったのです」

そこで選んだのが、「からあげ聖林」の業務提携店としてオープンすることだった。一般的なフランチャイズとは違い、売上に対するロイヤリティーは一切なし。守るべき条件としては、ブランドイメージを守るための味の均一化(肉・油の国産品使用等の条件)のみ。調味料・タレを本部から購入すれば、「からあげ聖林」のブランド名を使った店舗運営を実施できるのだ(社会福祉事業店舗としての扱い)

「熊本県内では初の『からあげ聖林』店舗だったので、最初からお客さんは次々に来てくれました。とくにオープンから2週間くらいは、すごかったです。隣に駐車場を臨時で借りないといけなかったくらい。中津からあげ独特のニンニクを効かせたパンチある味が、若い人にとてもウケたのでしょう。業務提携店という形を選択したからこそ、時間をかけずに地域の人たちに受け入れてもらえました」と、坂田茂支援課長。

2019年度の売上は年間約1,500万円ほどであり、テイクアウトを中心としたメニュー構成が功を奏してコロナ禍でも極端な売上減少とはなっていない。からあげ以外のメニュー(カレーやコロッケ等)を増やし、最近売り出した一般家庭向けのオードブルセットの人気も高まっているそうだ。

からあげ聖林(ハリウッド)」外観

  • からあげ聖林メニュー オードブル
  • からあげ聖林メニュー コロッケ定食

(写真提供:社会福祉法人熊本県手をつなぐ育成会)

B型事業の売上を3倍に急増させた、カラー軍手指人形

それに対して、B型事業では企業の下請け等を中心とした比較的地味な作業を創設時から続けてきた。工賃向上をめざして自主製品づくりに取り組み始めたのは、2011年からである。ご当地キャラクター「くまモン」のブームにあやかり、くまモンカゴの制作を始めたところ、思わぬ大ヒットとなったのだ。1個500円ほどの手づくり商品だが、カゴだけで年間約300万円、個数にして約6,000個がイベントなどで売れに売れた。初のヒット商品の誕生によって、職員のものづくりへの意識も高まったのである。支援員の坂口歩美さんは、次のように語る。

「くまモンカゴが売れてうれしかったのですけど、いつまでもこれに頼っているわけにいきません。消耗品ではないからお客さんは一つ買ったらそれ以上買わないし、単価も低いので売上もすごく高いわけではありません。もっと単価が高く、継続的に売れる商品を作りたいと思うようになりました」

そこで坂口さんが元・保育士の経歴を活かして考えたのが、カラー軍手を使った指人形だった。カラフルな手袋と、フェルト生地で作られた可愛いマスコットがセットになっていて、手遊びできる玩具である。保育の現場では、いつの時代でも童謡を歌いながら、手や指を動かす手遊び歌が大人気だ。年齢別、季節ごとにさまざまな手遊び歌があり、保育士たちは工夫を凝らして園児たちを楽しませている。

「手先の器用な保育士さんは、歌に合わせたキャラクター人形などを自分で作ったりするのですけど、ほとんどが自宅に持ち帰っての作業です。それに誰もが裁縫が得意というわけではありません(笑)。だから保育士さんの代わりに手遊び歌用の指人形を作れば、きっと喜んでもらえると考えました」と、坂口さん。

カラー軍手を使うアイデアは、たまたま施設の倉庫に山のようにカラー軍手があまっていたからだという。昔、何かのイベントに使うためにストックしてあったものを坂口さんがたまたま見つけ、これを元に指人形が作れるとひらめいた。まさに偶然の産物だったというわけだ。

  • 思わぬ大ヒットとなった「くまモンカゴ」
  • カラー軍手を使った指人形

設備や内職スタッフ体制増強により、生産力をアップ

いくつか試作した指人形をイベントで販売してみると、予想通り保育関係者たちには好評だった。しかし商品の魅力を理解できる顧客は、残念ながら保育士たちだけである。販売ルートは非常に限定されるため、くまモンカゴを超えるヒット製品になるとは想像もできなかったという。

状況が大きく変化したのは、2015年に日本セルプセンターの職員が熊本で開催されていた販売会(全国保育施設協議会全国大会)の帰りに「からあげ聖林」を訪れてからだという。つねに売れ筋商品を探しているその職員は、店の片隅に置かれていた指人形を見つけると「これは売れる!」と確信した。すぐに担当者と連絡をとり、各50~100個単位での大量発注を申し出たのである。

急な展開に、坂口さんたちは戸惑った。なにしろ当時は、パーツの一つひとつを職員がハサミで切り抜き、それを主に利用者が縫っていたのである。いくら注文をもらっても、出荷するまでに1か月以上待ちの状態が続いてしまった。

ちょうどその頃、熊本こすもす園に沼田施設長が赴任してきた。熊本県庁出身の施設長は、「どの施設も仕事がなくて工賃が上がらないと苦しんでいるのに、発注があるのに作れないなんてもったいない話はない」と、現場に生産力の増強を指示。フェルトパーツを切り抜く工程の型抜き器の導入、縫製作業の外部サポートスタッフ(内職)制度の導入などを進めていく。縫製部門を担当する利用者も増やすなど一丸となって現場体制を整えた結果、生産能力は大幅にアップ。とくにパーツの型抜き機械化の効果は大きく、これまでの約8倍もの発注に応えることができるようになったのだ。

日本セルプセンターでは、全国各地で開催されている保育施設関係者の研修会や大会などに出張販売に出かけ、これまでに多くの木工玩具、布製玩具等を販売してきた。熊本こすもす園のカラー軍手指人形は、上記のターゲットにまさにぴったりはまる商品だったのである。

  • フェルトパーツを切り抜く利用者さん
  • 縫製部門を担当する利用者さん

全国の保育施設に向け、どんどんPRしていきたい

生産力が増強されてからは、破竹の勢いで売れていった。販売会がある度に日本セルプセンターから500個前後単位での発注が続き、それがすべて1回の販売会で売れていく。2016年には300万円だった指人形の売上は、年々増加していき、ピーク時の2018年度にはなんと1,000万円を超えるまでになった。この金額は、熊本こすもす園のB型事業全体売上の約半分を占めている。当然、月額平均工賃もうなぎ登りだ。以前は1万円にも満たなかった工賃が、指人形というヒット商品の誕生によって、2万円を超すまでに上昇したのである。

「困ったことなら何でも引き受ける便利屋『こすもすはたらき隊』(空地の除草や、農作業の手伝い)や、企業からの下請け作業など、他にもさまざまな作業を行っていますが、中心となるのはこれからも指人形を初めとする自主製品の販売でしょう。今後伸ばしていきたいのは、価格帯をさらに上げたエプロンシアター等の新シリーズ(1セット 税込 7,500円)です。保育士さんが着るエプロンがステージとなり、そこにキャラクターが次々に現れてお話が展開していきます。保育士さんだけでなく、一般家庭も販売ターゲットとします。一目見ただけで遊び方が分かるような動画を制作し、ネットで配信できたらいいなと考えています」と、沼田施設長は意欲的だ。

  • 支援員の坂口歩美とオリジナル商品
  • オリジナル商品を製作する利用者さんたち

デザインを担当する坂口さんの目標は、オリジナル商品の拡充である。

「日本セルプセンター職員のアドバイスのおかげで、製品そのものもどんどんブラッシュアップできました。全国の保育士さんの意見が直接いただけるので、とても有難いです。今後の目標は、オリジナル商品を増やすことでしょうか。保育現場では定番となっている伝統的な手遊び歌だけでなく、『オバケのパン屋さんのお話』『ピョンチャンのお誕生日のお話』『なぞなぞクレヨンのお話』などのオリジナルストーリーを考えました。知育おもちゃの現場はとても変化が激しいので、あまりブームに乗っからずに、息長く売れ続ける商品開発を行っていきたいですね」

コロナ禍でイベントがすべて中止となり、「時間に余裕のある今」だからこそ、新商品開発をどんどん進めたいと坂口さんの意欲はとどまることがない。新たに生まれるユニークな製品の数々が、日本中の子どもたちの手に渡ることを期待し、これからもその販売を応援していきたいと思う。

(文・写真/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。