社会福祉法人たちばな福祉会(福岡県糸島市)

博多人形を生産しながら、障がいのある人の働く意味を問い続ける「小富士園」

たちばな福祉会の概要

たちばな福祉会は、障がい者支援施設「小富士園」(生活介護支援事業・施設入所支援事業・相談支援事業)を運営する社会福祉法人である。この他にも、「弥永保育園」、放課後等デイサービス「ピースクラブコフジ」、児童発達支援「キッズクラブコフジ」、ライフサポートセンター「小富士園」等の事業も運営する。

法人の設立は、1970年。「地域のために何ができる事を」と考えた初代本村幸子理事長が、行政の求めに応じて保育園を始めたのがきっかけだという。その3年後に身体障がい者でも働くことができる重度身体障害者授産施設「小富士園」が設立されたのである。

主な作業科目は当初から、地元の伝統工芸「博多人形」の製作である。泥漿→鋳込み→生地作り→削り・水拭き→焼成→艶付け→彩色→包装と、一連の流れを障がいのある人たちが分担して丁寧に行っていく陶芸技術には定評があり、2001年には博多人形商工業協同組合にも加盟した(障がい者施設として初の快挙)

可也山(糸島富士:通称・小富士)の麓に位置し、糸島の海岸からもほど近い、山と海に囲まれた最高のロケーションの中で、ゆったりと障がいのある人たちの働く場づくりが展開されている。

  • たちばな福祉会、外観南西面
  • 博多人形作品販売

博多人形人気が衰える中、可能性を模索する陶芸事業

山本真嗣施設長によると、小富士園が開所した当時、博多人形づくりというのは人気産業だったのだそうだ。

「福岡県では昔、『博多人形』を結婚式の引き出物にするという風習がありました。ですから問屋さんが、作れば作っただけ引き取ってくれた時代もあったそうなんです。私がここに入職するずっと前の話なのですが......。今ではそんな風習も廃れ、空港やデパートのお土産物売り場で細々と売られている程度です。売上は、全盛期の1/10くらいまで減ってしまったと思います」

代わりに力を入れているのが、干支人形づくりである。毎年の干支を伝統的なデザインに落とし込んだ人形は今でも変わらず人気があり、毎年約7,500体程度(2種類の合計)売れていく(これとは別に、企業からのオリジナル干支の発注が20,000体ある)。人形全体の売上として約9割を占めるまでになったので、今では干支人形が小富士園の主力商品だといってもいい。

もちろん、干支人形以外の制作販売を決してあきらめたわけではないと山本施設長はいう。「これまで培ってきた人形づくりの技術には、絶対の自信がある」からこそ、少しでも可能性を求めて2018年からAmazonでの通信販売(博多人形)を始めたり、企業・団体から発注されるノベルティグッズ製作にも力を入れている。納期や制作物のデザインにもよるが、5,000個〜6,000個レベルの大量ロット制作も対応可能であり、これまでに大手企業や団体からの受注実績もあるという。

  • 博多人形の彩色体験
  • 干支やお酒など縁起物販売コーナー

地域住民対象の「陶芸・絵付け教室」も大きな事業の柱

小富士園の陶芸事業にとってもう一つの大きな柱となっているのが、地域住民を対象とした「陶芸・絵付け教室」である。この活動について、中島博司支援員は、次のように語る。

「『陶芸・絵付け教室』は、施設開設当初からずっと続けてきた活動です。近隣の幼稚園、小・中学生、高校生、老人会等々、たくさんの学校や団体から申し込みがあります。卒業シーズンに向けた記念品作成が中心なので、1月から3月がとても混み合います。今は新型コロナ感染拡大の影響で激減してしまいましたけど、ピーク時には年間で約3,000人、50件くらいの申込がありました。1回の参加費は、平均すると1人だいたい1,000円程度(人数・時間・曜日によって上下する)でしょうか。これだけでも総売上は約250万円くらい。陶芸事業の約1割を占めるわけですから、とても大切な仕事だと言えます」

陶芸教室を実施する時は、参加者が指定する場所に職員が出張して出向いていくのだそうだ。① 絵付けコース(素焼きした陶器等に絵を描く)、② 陶芸コース(ペン立てを作るためのキットが用意されている)、③ 本格陶芸コース(手びねりによって陶器づくりの醍醐味を体験できる)の3つのプログラムが用意されていて、団体毎に好きなコースを選ぶことができる。利用者が教室の現場に直接赴くことはないが、参加者が作った人形の焼成・箱詰めなど多くの作業が、事業所で行われている。

  • 博多人形の彩色体験
  • 商品への彩色をする利用者さん

「40年近くも教室を続けていますから、糸島市内の住民たちは学生の時に小富士園の陶芸教室を受けている人が多いのです。なかには親子二代にわたって受講してくれた人たちもいます」と、山本施設長は嬉しそうに語る。陶芸教室の冒頭では施設の概略や障がい福祉について必ず話すようにしているため、糸島地区においては多くの人たちから、小富士園は「子どもの頃に一度は陶芸教室でお世話になった障がい者施設」と認識されているわけである。

重度障がいのある人にも、「働く意味」を問い続けたい

小富士園は、2011年の障害者自立支援法制定の際に新体系として「生活介護支援事業」を選択した。もともと重度の利用者が多かったのだが、設立後約40年が経ってさらなる高齢化・重度化が課題となっていた。そこで就労事業は縮小化し、生活介護を中心とする運営方針に転換したのである。しかしその方針転換によって、利用者たちの気持ちに思わぬ変化が生まれてしまったのだと、山本施設長は説明する。

「本来の目的は、これまでの作業ができなくなった重度利用者のための対応でした。しかし、障がいが重くない人まで介護を求めるようになってきたのです。これはちょっとマズいよね...ということで、翌年から人形作りを再び元に戻しました。すると、少し認知症になりかけていた利用者さんの症状が、回復してきたのです。就労にはそのような効果もあるのだということを、この時初めて知りました。たとえ重い障がいがある人でも、何らかのカタチで作業に従事することは大切です。決して高い工賃を目指すだけが、生産活動の目的ではないと私たちは考えています」

そんな発想の延長線として、小富士園ではリサイクルされたペットボトルキャップから燃料を作り出す検証も進めている。ペットボトルキャップというのは純粋なポリエチレン素材のため、化学的に液化できれば、理論的には燃料(ガソリン)を作ることが可能となる。これを新エネルギーとして施設内で再活用したいというのが、山本施設長の考えなのだ。

博多人形という伝統工芸にこだわりながら、新たな発想で重度障がいのある人たちが働く意味を考え続ける小富士園の挑戦は、これからも着実に続いていくことだろう。

  • 干支陶芸、削り作業をする利用者さん
  • 干支陶芸、艶付作業をする利用者さん

(写真提供:社会福祉法人たちばな福祉会、文:戸原一男/Kプランニング

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。